大阪府感染症情報センター ものしり講座(40)


マイコプラズマ肺炎

 マイコプラズマ肺炎はMycoplasma pneumoniae(肺炎マイコプラズマ)と名づけられた細菌が原因となっておこる呼吸器の感染症です。感染初期はカゼ様の症状を呈し、発熱、頭痛、のどの痛み、咳、全身疲労感などがあり、時間の経過とともに咳が強くなります。重症の場合は肺炎を起こし、胸水がたまる場合もあります(写真)。マイコプラズマ肺炎はこの咳に特徴があり、粘液や痰の比較的少ない乾いた咳で、他の症状が緩和したあとでも長く続きます(3〜4週間)。血液検査所見として血沈の亢進はよくみられますが、白血球数は正常もしくは軽度の増加にとどまります。

 感染者の多くは中学生以下の小児ですが、成人の感染も珍しくはありません。感染経路は飛沫感染による経気道感染で、感染には濃厚な接触が必要とされており、インフルエンザのような短時間の接触による爆発的な流行はないとされています。また潜伏期間はインフルエンザ、レンサ球菌感染症などの他の呼吸器感染症が数日であるのに対して2〜3週間と長いのが特徴です。

 肺炎マイコプラズマは少し変わった構造をしており、他の多くの細菌が保有しその形態を特徴づけている細胞壁を持っていません。そのため形態は不定形であり、多くの細菌が通過できない径0.45μmの小さな穴を通過することができます。また本菌は他の一般細菌と異なり発育速度が遅く、培養に数週間を必要とします。そのため診断を行うための検査として培養検査はほとんど実施されなくなってきています。診断には感染後比較的早期に上昇するIgM抗体を迅速に検出するキットが開発され、臨床現場において活用されてきています。しかし幼児、学童の初回感染例では発病1週間以内では陰性を示すこともあり、また偽陰性、偽陽性も多いので若干信頼性に欠ける検査法となっています。最近では、PCR法、LAMP法などによる遺伝子検出法が多くの研究機関で実施されるようになってきており、2011年10月にはマイコプラズマ核酸同定検査として保険適用もされています(点数300点)。現状では遺伝子検査はコストも高く一般の医療機関、検査センターにおいての導入には難しい面がありますが、遺伝子検査の中には数時間以内に結果の出る方法もあり、その有用性から今後は徐々に普及していくものと思われます。

 治療法としては抗菌薬投与が基本となりますが、肺炎マイコプラズマは細胞壁を保有しませんので、細胞壁の合成を阻害することで抗菌活性を発揮するβ-ラクタム系抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系などの薬剤)は効果がありません。これらの薬剤は呼吸器感染症で使用されることも多いため、確実な診断が非常に重要となります。治療にはマクロライド系薬剤(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)が第1選択薬とされ使用されてきましたが、近年は耐性菌が非常に増加しています。世界で初めてマクロライド耐性菌が分離されたのが2000年ですが、その後徐々に増加、2011年には80%以上が耐性菌であったという報告もあります(http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3814.html)。マクロライド系薬剤以外にマイコプラズマ感染症に適応があるのはミノサイクリンですが歯の着色という副作用があるため、歯芽形成期にある小児への使用がためらわれることがあります。耐性菌の蔓延状況を考慮した使用が必要と思われます。また2009年10月にニューキノロン系薬剤のトスフロキサシンが薬剤耐性菌感染症治療用として小児への適用が認可されていますが、マイコプラズマ感染症への適用の可否の判断は今後の検討が待たれるところです。

 マイコプラズマ肺炎の予防接種は今のところ開発されていません。また2度、3度と再感染が起こります。子供から大人まで何度もかかる可能性のある感染症ということになります。予防法としてはインフルエンザなどの呼吸器感染症と同様にマスクの着用、手洗い、うがいの励行になります。ヒトからヒトへの感染力が比較的低い感染症なので感染し咳が出る間のマスクの着用は他のヒトに感染させる危険性の低減に役立ちます。周囲への気遣いが大切です。

 レントゲン写真 27才 男性 : 右下葉の浸潤影と胸水

 (右下葉の浸潤影)
   

 (胸水)
 

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