大阪府感染症情報センター ものしり講座(43)


不活化ポリオワクチン導入後の感染源調査としての下水サーベイランスについて



 平成24年9月より、本邦において不活化ポリオワクチン(ウイルスを死滅させ、免疫を獲得するために必要な成分より作製)の定期接種が開始されました(注1)。従来の生ポリオワクチン(生きたウイルスの病原性を弱めて作製)の接種では、強い免疫を獲得できるかわりに440万回接種に1回の頻度でワクチン関連麻痺が発生する危険性がありました。さらに、ワクチン接種後、生きたウイルスが糞便より排泄されるため、免疫力が低下した人に感染が起こる危険性が問題となっていました。不活化ワクチンの導入によりこれらの問題が解決すると期待されています。しかし、不活化ワクチンの接種では、粘膜免疫の誘導や免疫の維持期間の点で生ワクチンよりも効果が低い可能性が指摘されています。

 ポリオワクチン株はまれに病原性の高いポリオウイルスに変異する危険性があります。生ポリオワクチンはいまだ海外で使用されており、このような変異ウイルスが国内に持ち込まれるかもしれません。また、流行国から野生株ポリオウイルスが持ち込まれるかもしれません。この場合、不活化ワクチンを接種した人にこれまでとは異なる健康被害事象が起こる可能性が考えられます。

 我が国では厚生労働省が実施主体となり、感染症流行予測調査事業としてポリオウイルスに対する血清抗体保有状況調査および感染源調査(ポリオウイルスサーベイランス)が実施されています。不活化ワクチン接種者の免疫維持状況を正確に把握することは重要です。従って、抗体保有状況調査を継続的に行う事には高い意義があります。一方、ウイルス検索は、従前とは異なるアプローチが必要になると思われます。

 これまでの感染源調査は、生ポリオワクチンの接種を受けた健常児を対象に、ワクチン接種後2カ月以上経過した時点で糞便中のポリオウイルスを検索するものでした。しかし、不活化ワクチンは原理的に糞便からウイルスが排出されることはありません。従って、不活化ワクチンの導入に合わせ、より良い方法で感染源調査を行う必要があります。

 環境水サーベイランスを行えば、下水道が整備された地域のヒト集団で流行しているポリオウイルスを検出することが可能です。そこで、今後の感染源調査は下水(注2)を対象にすることが適切と考えられます。実際、これまで調査研究目的で夏季と秋季に下水からポリオウイルスが分離されてきました。これらのウイルスはワクチン株か変異したワクチン株でした。

 大阪府立公衆衛生研究所では、平成24年2月より1カ月に1回の頻度で下水からのウイルス分離を実施しています。現在のところ、不活化ワクチン導入後にポリオウイルスが検出されたことはありません。我々は今後も継続して下水中のポリオウイルス監視を行っていきたいと思っています。

     
(注1)日本では平成24年9月1日から生ポリオワクチンの定期予防接種は中止され、不活化ポリオワクチンの定期接種が導入されました。ジフテリア・百日せき・破傷風・不活化ポリオワクチン(DPT−IPV)の4種混合ワクチンの定期接種は、平成24年11月1日から開始されました。
(注2)本稿における下水とは一般家庭のトイレ、台所、風呂などから下水道に排水された汚水のことを指します。
 

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