大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第101号− 2012年1月31日発行


新規HIV感染者における薬剤耐性HIVの保有状況

 HIV/エイズが世に知られるようになって30年が経過しました。その間、多くの治療薬が開発され、1980年代当初「死の病」と恐れられたこの病気も今では適切な治療によりコントロール可能な慢性疾患となりました。現在、HIVが持つ酵素の働きを阻害する薬剤や、HIVと細胞の結合を阻害する薬剤など、合わせて20種類にものぼる抗HIV薬が治療に使われ,すぐれた効果を発揮しています。しかしながら、HIVを完全に体内から排除できる治療法は未だ見つかっておらず、治療薬は生涯飲み続けなければならないのが現状です。そのため、長期に渡る服薬によって出現する薬剤耐性HIVが治療の妨げとなっており、さらには治療歴のない新規感染者にまで薬剤耐性HIVが見つかるなど、薬剤耐性HIVによる新たな感染の広がりが問題となっています。

 薬剤耐性HIVに感染すると、治療に使える薬剤が最初から制限されてしまい、また薬剤耐性HIVに感染していることを知らずに治療を始めた場合、期待される治療効果が得られないばかりか、本来有効であるはずの薬剤までが効果不十分となり耐性を獲得しやすくなる可能性があります。そこで私達は、大阪府の新規HIV感染者における薬剤耐性HIVの伝播状況とその発生動向を把握するための調査を実施しました。

 2003年から2011年の間にHIV感染が判明した672例について、ウイルスの遺伝子配列を解析し薬剤耐性に関連するアミノ酸変異の有無を調べた結果、60例(8.9%)において何らかの抗HIV薬に対する耐性変異が検出されました。年次推移を図に示しましたが、検出例数はやや右肩上がりの増加傾向にあり、検出率は年毎に変動はあるもののだいたい7-10%前後で推移しています。

 新規感染者に検出される薬剤耐性アミノ酸変異の多くは1カ所のみの変異で、耐性の度合いや治療効果に与える影響は低いと思われるものが大部分ですが、近年になって中〜高度の薬剤耐性を示すと考えられる変異を持つHIVがしばしば検出されるようになりました。また、同様の耐性変異を持ち、遺伝子配列が非常に似ているHIVが東京、名古屋など大都市圏の新規感染者でも多数見つかっており、地域を越えて感染が広がっている可能性が考えられました。
 新規HIV感染者に見られる薬剤耐性変異はここ数年で多様化・高度耐性化する傾向にあり、今後の動向が注目されます。



(ウイルス課 森 治代)


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