大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第102号− 2012年2月29日発行


結核は誰からうつるの? ━結核の感染と発症の違い━

 ○結核の集団感染

 「○×県の▽△で、結核の集団感染が起こり、X人が発症、Y人が感染」という記事がときどき新聞やネットニュースに載ります。今年の2月になってからでも表1.のような事例が報道されています。結核の集団感染は「同一の感染源が2家族以上にまたがり、20人以上に感染させた場合をいう。ただし発症者1人は6人が感染したものとして感染者数を計算する」という定義があります。たとえば、表の北海道の病院の事例では、感染者数は(3×6)+9で27人の感染者がいたということになります。神奈川の市議会の事例は(1×6)+3なので、感染者は9人であり、結核集団感染事例の定義にはあてはまりません。

 では、結核の集団感染の定義にある「感染者」と「発症者」の違いはなんでしょうか? 表2.に結核の感染者と発症者の違いをまとめました。

 結核菌を吸い込み、菌が肺胞に定着すると結核菌の「感染者」となります。この状態はまだ病気ではありませんので、レントゲンなどの画像撮影で肺に影も見えませんし、咳や発熱などの症状もありません。また、感染者の肺では結核菌は免疫で抑えられており増えることができないため、「感染者」の口から菌は出ませんし、他のヒトに結核菌をうつすこともありません。

 「感染者」のうち約1割は、肺で結核菌が増えて病巣ができてしまいます。この状態になってしまったヒトを結核の「発症者」と呼びます。病巣が大きくなって外界に通じる気管支などにつながってしまうと結核菌が喀痰に混じって出てきてしまいます。このような発症者を「結核菌陽性患者」(以下、「菌陽性患者」)と呼びます。「菌陽性患者」は喀痰に結核菌が混じっているので、他のヒトに結核をうつしてしまいます。一方、結核菌が喀痰に出てこない発症者を「結核菌陰性患者」(以下、「菌陰性患者」)と呼びます。「菌陰性患者」は肺病変などの症状はありますが、他のヒトに結核をうつすことはありません。「菌陽性患者」でも治療を始めてしばらくすると病巣が治ってきて「菌陰性患者」になります。

 

 「感染者」と「発症者」はどうやって診断するのでしょうか? 結核に感染すると、結核菌に対する免疫ができます。結核に対する免疫ができているかどうかは、ツベルクリン反応やクォンテォフェロンという検査で調べることができます。これらの検査で陽性で、肺やその他の臓器に病巣のできていないヒトは「感染者」、病巣のあるヒトは「発症者」です。

 「発症者」は病気になっていますので結核に対する治療が必要ですが、「感染者」には治療は必要でしょうか? 「感染者」は、現在では「潜在性結核患者」と呼ばれています。結核を発症していないし、感染源にもなりませんが、将来結核を発症しないようにするための治療が必要です。イソニアジドという抗結核薬を6か月服用すると「感染者」が「発症者」になるのを約70%抑えられると言われています。この「発症をおさえるための治療」を「潜在性結核の治療」といい、結核「発症者」の治療と同様に公費負担制度があります。

 以上、まとめますと、結核の「感染者」と「発症者」には、○「感染者」は病気でもなく、ヒトに結核をうつす恐れもないこと ○発症者は結核菌による病巣ができているヒトで、そのうち他のヒトに結核をうつすのは「結核菌陽性患者」だけであること という違いがあります。報道で結核集団感染の記事を読まれるときに、この違いを思い出していただけると幸いです。

 

(細菌課 田丸 亜貴)


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