大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第104号− 2012年4月27日発行


大阪とソウルに飛来した黄砂に対するマクロファージの活性酸素反応の違い

 近年、黄砂が花粉症症状や喘息症状を悪化させるのではないかと問題になっています。黄砂自体は中国大陸の砂漠の砂ですが、カビや微生物も付着しています。また、黄砂は強風で空中を飛来しますが、大気中には元々様々な汚染物質(大気粉塵)も漂っています。従って、黄砂自体がアレルギー症状を激しくするという考えや、黄砂に付着した大気汚染物質やカビや微生物がアレルギー反応を起こすという考えがあるように、そのメカニズムは明らかではありません。

 今回、大阪(大阪府立公衆衛生研究所の屋上)やソウル(高麗大学の屋上)で飛来した黄砂を捕集し、それらの飛来黄砂や対照粒子(飛来黄砂を構成する成分:中国の砂漠の砂から作られた黄砂のモデル粒子(黄砂試料)、黄砂試料主成分のシリカ粒子、黄砂が飛来していないときの大気粉塵(5月大気粉塵、夏大気粉塵、冬大気粉塵))に対する実験動物の肺胞貪食細胞の活性酸素反応を調べ、飛来黄砂のどのような成分がこの活性酸素反応性において重要かを検討しました。

 試料:写真の左側3本の試験管内はソウルで捕集した黄砂、その右側3本は大阪で捕集した黄砂、一番右は大阪で捕集した黄砂が飛来していないときの大気粉塵です。5月の黄砂ではソウルより大阪の黄砂の方が黒かったです。3月の黄砂はソウルも大阪も比較的砂の色に近い色でした。

 



 活性酸素反応性:実験動物の肺胞貪食細胞に試薬や各試料600、400、200、50μgを加え、15分毎に活性酸素量を測定しました。

 
 

 細胞に各試料を投与した初期(15分後)と反応安定後(45分後)の結果を図に示します。先ず、対照粒子の結果では、黄砂試料や黄砂試料の主成分のシリカでは常に試料投与量が増加すれば反応量も増加するという関係が保たれました。しかし、大阪で捕集した黄砂を含まない大気粉塵では、捕集した季節にかかわらず、試料投与量が少ないほど反応が強い結果でした。

 大阪の黄砂の実験結果では、肉眼的に茶色く、付着する大気汚染物質量が相対的に少ないと考えられる3月黄砂では、15分では試料投与量が増加すれば反応量が増加するという関係でしたが、45分では量と反応の関係が一定に近い状態になりました。つまり、3月黄砂は比較的黄砂試料に近い反応性でした。一方、肉眼的に黒く付着物質が相対的に多いと考えられる5月黄砂では、15分から常に少ない量で反応が強い関係でした。また、その反応性は黄砂が含まれていない5月などの大気粉塵と同様でした。これらの結果では、飛来した黄砂では、付着物質が少ないときは少ない量での反応性が弱く、付着物質が多いときは少ない量での反応性が強くなると考えられました。つまり、飛来黄砂の少量での反応性を重視すれば黄砂自体よりも付着する大気粉塵がこの反応を強くすると考えられます。

 なお、光化学スモッグ注意報発令日に飛来した黄砂の「光化学黄砂」では若干反応が弱くなりました。この反応に影響を与える物質は光化学反応で減少するのかも知れません。

 ソウルの黄砂の実験結果では、15分では大阪の黄砂と比較して反応性が弱いという傾向がありました。また、45分でも少ない試料投与量では大阪の黄砂ほど反応が強くなりませんでした。飛来黄砂の少量での反応性を重視すれば、ソウルの黄砂より大阪の黄砂の方が、反応性は強いと考えられます。また、朝と夜の黄砂の反応性は類似しました。この反応に影響を与える物質は、太陽光線があたる程度では明らかな変化はなさそうです。

 大気中には様々な物質が粉塵として浮遊しています。大気粉塵の量は、黄砂飛来時には圧倒的に増加します。今回の結果からは、黄砂自体のこの反応性が強いのではないことがわかりました。また、黄砂が飛来した時、黄砂が大気粉塵の核となることで、反応性は通常の大気粉塵と同様だが粉塵の量が通常より圧倒的に増加し、喘息などの影響が顕著に現れるのではないかと考えられました。

 ソウルで黄砂をサンプリングしていただいた高麗大学の先生は、黄砂の健康影響が問題になってきたのは最近で、以前はいくら黄砂が飛来しても健康被害の報告はなかったとおっしゃっています。大気粉塵の成分が昔と変わってきていることが、黄砂による健康被害の原因かも知れません。我々は、大気粉塵中のどのような成分がこの反応に影響を与えるのか検討するため、今後、この反応に影響を与える大気粉塵中の成分を詳細に検討するため、北京やロシアでも飛来する黄砂や大気粉塵を採取し、実験動物の肺胞貪食細胞の活性酸素反応を比較し、かつ、各地点での黄砂に付着する成分を分析する予定です。

 元々、大気粉塵は様々な疫学調査で喘息との関連性が示されています。今回の結果は、黄砂の健康被害は黄砂だけを注意すればよいのではないことを示しており、大気汚染対策の重要性を示していると考えられます。最近は中国大陸からの越境大気汚染も問題になっていますが、我々の今回の飛来黄砂の成分測定では、付着する大気粉塵の成分パターンは日本の粉塵パターンでした。大気粉塵中のこの反応を修飾する物質が特定できれば、黄砂の健康被害の対応も取れるかも知れません。

 解説:肺胞貪食細胞は肺内に侵入した細菌などを貪食し活性酸素を放出して処理する細胞です。しかし、放出された活性酸素は自身の貪食細胞の周りの細胞に対してもダメージを与えます。石綿の発がん性の原因の一つに肺胞貪食細胞が放出する活性酸素が考えられています。また、肺胞貪食細胞は免疫機能の一部を担う細胞です。

  

(生活環境課 大山 正幸)


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