大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第108号− 2012年8月31日発行


大阪府内における過塩素酸イオンについて

 過塩素酸塩(過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム等)は、消防法の危険物第1類に分類される反応性の高い酸化性固体であり、ジェット燃料、花火、火薬、車のエアバックなどに使用されています。その水溶性は高く、解離した過塩素酸イオン(ClO4-)は水中で安定に存在ます。過塩素酸イオンが人体へ取り込まれると、甲状腺へのヨウ素の取り込みを減少させ、甲状腺ホルモンのひとつであるチロキシン(T4)の産生と利用を抑制し、甲状腺機能の低下、ヨウ素の欠乏を引き起こすとされています。アメリカにおいて1990年代後半に食品、飲用水への汚染が明らかとなって関心が高まり、その後、日本においても調査が行われ、食品(ワイン、魚介類、牛乳等)からの検出事例が報告されています。平成18年にアメリカ環境保護庁(USEPA)は、米国科学アカデミー(National Academy of Science, NAS)が参照用量(Reference Dose, RfD)*1として勧告した 0.7 μg/kg-bw/day*1 を採用して、飲料水等価レベル(drinking water equivalent level, DWEL)*2として24.5 μg/Lを公表しました。一方、日本においても、平成21年に水道水質基準関連項目である要検討項目*3に過塩素酸が追加され、平成23年4月より、目標値が 25 μg/L(0.025 mg/L) に設定されています。

 国内では、過塩素酸イオンの調査は限られており、その存在実態はまだ明らかとなっていません。そこで大阪府における過塩素酸イオンの存在状況を把握するために、府内の水道水源である河川(淀川、猪名川、石川)、水道原水および浄水における実態調査を行いました。その結果、河川ではすべての調査地点から検出され、その検出濃度範囲は0.03〜0.70 μg/L、水道原水ではND〜0.48 μg/L*4、浄水ではND〜0.95 μg/Lとなりました。また浄水場における水道原水および浄水において、検出濃度に大きな差はなく、浄水処理*5では除去されにくいことがわかりました。

 河川調査において、下流にいくにつれて検出濃度が高くなる傾向や、局所的に高い濃度が検出された地点があり、下水の流入による負荷が示唆されました。前述の高濃度で検出された原因として、家庭用漂白剤中(主成分:次亜塩素酸ナトリウム)の過塩素酸イオンが推察されたため、その濃度を測定したところ、8製品から0.1〜47.6 mg/Lで検出されました。また、製品中の有効塩素濃度*6が低くなると、過塩素酸イオンの検出濃度が高くなる傾向がみられ(図)、保存状態や期間により漂白剤中の過塩素酸イオンが増加していると考えられました。このことから家庭用漂白剤が水環境中での汚染源の1つになっていることが考えられました。

 なお、浄水の検出濃度から過塩素酸イオンの1日摂取量(体重50kgの成人として)を求めたところ0〜0.036 μg/kg-bw/dayとなり、RfD(0.7 μg/kg-bw/day)と比較すると十分に低い値でした。したがって、大阪府における水道水中の過塩素酸イオンによる健康リスクは非常に小さいと考えられました。

 今回の調査で検出された過塩素酸イオンは、いずれの地点も目標値である25 μg/Lより低い濃度ではありましたが、浄水処理で除去が難しいことから、今後とも詳細な分布状況の把握および汚染源の解明のための調査を継続して行っていく予定です。


 *1 参照用量(RfD)
 ヒトの健康への悪影響が生じないと見込まれる、1日あたりの曝露レベルの科学的な推定値 μg/kg-bw/day はヒトの体重1kgあたりの1日摂取量を表す

 *2 飲料水等価レベル
 体重70kgのヒトが1日2Lの水を飲用し、飲料水からの寄与が100%であると仮定した場合の値

 *3 要検討項目
 毒性評価が定まらない、または浄水中の存在量が不明等の理由から水質基準項目、水質管理目標設定項目に分類できないとして情報・知見を収集すべきとされた項目(現在48項目あり、25項目に目標値が設定されている)

 *厚生労働省 水質基準に関するHP
 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html

 *4 ND (not detected)=定量下限値未満

 *5 浄水処理
 急速ろ過、緩速ろ過、活性炭処理およびオゾン-活性炭処理などの浄水処理

 *6 有効塩素濃度
 製品中に含まれる殺菌や酸化反応に有効に作用し得る塩素化合物の塩素量を重量%で表したもの

 *  単位について
 mg/L = 1000 μg/L( 1mg/Lとは「1L中に1mg含まれている」ことを表す)


 参考文献
 平成21年度大阪府水道水中微量有機物質調査報告書
 http://www.pref.osaka.jp/kankyoeisei/suido/biryoyuki.html

 高木ら、大阪府の水道における過塩素酸イオン濃度とその浄水処理による消長、環境化学, 21, 251-256(2011)
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jec/21/3/21_3_251/_pdf

(生活環境課 安達 史恵)


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