大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第109号− 2012年9月28日発行


バイオアッセイを取り入れた新しい残留性有機汚染物質に関する研究

 残留性有機汚染物質による環境や食品の汚染は「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)1)」で2009年に9物質、2011年に1物質が新たにリストへ追加されたことからもわかるように、今も継続している問題です。そのため、私たちは大阪府における残留性有機汚染物質の水環境や食品への汚染実態や府民への曝露状況の調査を行っています。環境や生態系への影響が心配されている物質でも、人体へは影響が少ない物質もあります。公衆衛生では人体への有害性がより心配される物質を研究することが求められているため、研究対象となる物質の人体への影響を知る必要があります。一方、残留性有機汚染物質に関する研究は生態系への影響に関するものの方が多いため、既存の情報では人体への影響が分からない場合が多々あります。そこで、私たちは、汚染実態調査だけでなく研究対象となる物質の人体への有害性の評価を行い、より人体にとって重要で、研究の必要性が高い物質を明らかにできるか検討しました。

 今回、有害性の評価にはヒト細胞内の核内受容体に対するアゴニスト作用2)を用いました。核内受容体は体内のホルモンと相互に作用して、人体の生殖活動や恒常性の維持に重要な役割をしています。1990年代以降、人体への影響が問題視されている環境汚染物質の多くに、核内受容体の正常な活動に影響を及ぼす、いわゆる内分泌かく乱作用があると知られています。

 最近、環境への残留に関する報告が増えている人工香料と紫外線吸収剤3)について、ヒト男性ホルモン受容体、ヒト甲状腺ホルモン受容体、ヒトダイオキシン受容体へのアゴニスト作用を調べました。実験には、試験した物質がヒト核内受容体にアゴニスト作用を示したことを発色の濃さで観察できるように遺伝子を組み換えた酵母を用いました。結果として、紫外線吸収剤であるUV-PとUV-326の2種類について、ダイオキシン受容体へのアゴニスト作用を示すこと、つまりダイオキシンと同様に体内でふるまい有害性を持つ可能性があることがわかりました。同様の性質を持つ物質には突然変異を引き起こすものもあるため、今後は今回発見した2種類の物質に着目し、突然変異を起こすのかを調べるとともに、環境、特に水質や食品の汚染実態調査に取り組む予定です。

 今回の研究で、まだ人体への影響が明らかではない残留性有機汚染物質の中で研究の必要性が高い可能性のある物質を抽出できました。今後は、人体への有害性を評価するための手法を増やし、多方面から残留性有機汚染物質の人体への影響を調べたいと考えています。この研究で、残留性有機汚染物質の大阪府における汚染実態だけではなく、その汚染が人体に及ぼしかねない影響を評価し、府民の公衆衛生の向上に有益な情報が発信できると共に、使用や排出の規制等の施策決定に重要な情報を提供できると期待しています。

   
   1)  ストックホルム条約:外務省HP http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/jyoyaku/pops.html
   2)  アゴニスト作用:生体内の受容体に作用する物質。本来結合するべき生理活性物質と競合するため、物質によっては生理作用をかく乱する恐れがあります。 
   3)  紫外線吸収剤:紫外線を受けることによるプラスチック製品の劣化防止のために配合される添加物です。紫外線のエネルギーを吸収し、熱エネルギーに変えることで劣化を遅延させる効果があります。 

(食品化学課 永吉 晴奈)


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