大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第113号− 2013年1月31日発行


水銀による環境汚染について

 鉄、鉛、銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素等は重金属と呼ばれ、過剰な摂取は人体に悪影響を及ぼします。20世紀、鉱工業の発展に伴い、鉱山や工場等からの廃液により人体に重金属が蓄積されて重度の障害をひきおこす公害病が多発しました。代表的なものに、足尾銅山の鉱毒による被害、メチル水銀が引き起こした水俣病、カドミウムによるイタイイタイ病があります。今回は、近年再び問題となっている水銀汚染について紹介します。

 水銀は地殻を構成する成分で、空気、土壌、水いずれにも微量に存在します。人体にも必須元素として3〜4 mg 蓄積されています。水銀の種類には、温度計や蛍光灯に用いられた金属水銀、酸化水銀 (II) 等の無機水銀、かつて農薬として使用された有機水銀があります。水俣病は、化学工業会社がアセチレンからアセトアルデヒドという化学物質を製造する過程で用いた硫酸水銀の一部がメチル水銀となり、工場排水とともに水俣湾に排出され、このメチル水銀に汚染された魚介類を摂取して発症した公害病です(1956年)。熊本・鹿児島両県の水俣病認定患者数は2010年3月末時点で2271名。その後同様な公害病が新潟でも起こりました(第二水俣病、1965年)。症状は中毒性中枢神経疾患で、四肢末端優位の感覚障害、運動失調、求心性視野狭窄、聴力障害、平衡機能障害、言語障害、振戦(手足の震え)が見られ、重篤なときは、狂騒状態から意識不明をきたし、死亡する場合もありました。舞台となった水俣湾は、環境省の調査によって安全が確認され、現在では漁が行われるまでに回復しています。


 金属水銀は常温では液体ですが、自然界に堆積した鉱物中の水銀は浸食や大気からの沈着によって、河川で濃縮されます。その後、非酵素的反応や微生物の作用によって有機水銀に変化し、食物連鎖を介して、大形魚類や深海魚、海棲哺乳類に蓄積します。また、植物は湿った状態で水銀を吸収し、乾燥すると排出します。植物や堆積物からなる石炭の中には水銀が含まれています。火力発電で石炭を燃焼した際、石炭中に含まれていた水銀が、燃焼とともに大気中に放出され、降雨等により土壌、河川を汚染してメチル水銀に変化します。2010年時点、我が国の石炭による火力発電は全体の40%を占めます。中国では79%、アメリカでは45%の発電に石炭が利用され、ヨーロッパでも多く利用されています。「石炭燃料」は安価で資源埋蔵量も豊富なことから、特に原子力発電所事故以降、主力燃料となっています。重金属による環境汚染が減少する中、水銀汚染のみが世界的に年々増加しています。日本人の水銀摂取の80%以上が魚介類由来となっています。また、一部の魚介類については、特定の地域等にかかわりなく、水銀濃度が他の魚介類と比較して高いものも見受けられます。厚生労働省はキンメダイやカジキ、マグロなどの魚類、クジラ、イルカなどの海棲哺乳類に含まれる水銀が胎児の発育に影響を及ぼす恐れがあるとして、妊娠中やその可能性の有る女性は、魚介類の摂取量や回数を制限するように注意を喚起しています。近年の研究で、「胎内でひどく水銀に曝露した子どもたちには高い割合で注意欠陥障害 (ADHA) がある」とアメリカ疾病予防管理センター (CDC) が報告しています。しかしながら、魚介類は、良質なたんぱく質や健康に良いと考えられるエイコサペンタエン酸 (EPA) やドコサヘキサエン酸 (DHA) 等の高度不飽和脂肪酸を他の食品に比べて多く含み、また、微量栄養素の摂取源である等、健康的な食生活にとって不可欠で優れた栄養特性を有しています。また、肉食中心の欧米的な食生活は、肥満や大腸がんとの関係も指摘されています。厚生労働省が実施している調査によれば、平均的な日本人の水銀摂取量は健康への影響が懸念されるようなレベルではありません。特に水銀含有量の高い魚介類を偏って多量に食べることを避けて水銀摂取量を減らしつつ、魚食のメリットを活かしていくことが望まれます。偏りのないバランスのとれた食生活を心掛けましょう。

(食品化学課 小西 良昌)


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