大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第119号− 2013年7月31日発行


新しく同定された食中毒病因物質、ヒラメに寄生するKudoa septempunctataによる食中毒


 平成23年6月、これまで原因不明とされてきたヒラメの生食によって起こる食中毒は、Kudoa septempunctata(クドア・セプテンプンクタータ;以下、クドア:図1)という寄生虫の1種が原因であることがわかりました。


 

図1. クドア・セプテンプンクタータ


 このクドアによる食中毒では、患者は食後数時間程度で一過性の嘔吐や下痢を発症しますが、幸いにも、予後は良好です。ある食中毒事件の疫学解析の結果から、ヒトの最少発症クドア胞子数は約7200万個と推定されています。クドアが寄生したヒラメでは、多いものになると1 gあたり1000万個もの胞子が検出されますので、この場合、ヒラメの刺身を一切れ程度食べるだけで食中毒になると考えられます。しかし、同じ養殖場で飼育されたヒラメであっても、1000万個以上のクドア胞子が寄生する個体がいたり、逆にクドア胞子が全く検出されない個体がいたりとクドアの寄生数にはかなりの個体差があるため、すべてのヒラメが危害を及ぼすというわけではありません。

 クドアが食中毒病因物質に指定された平成23年6月から12月までの期間と平成24年の1年間に発生した食中毒を主な病因物質ごとにまとめると、クドアは、平成23年では事件数が33件と第5位に、患者数が473人と第7位に位置し、平成24年でも事件数は41件と第5位に、患者数は418人と第6位に位置します。つまり、クドアによる食中毒は、日本では比較的発生が多いという状況です。

 クドアの食中毒では、疫学情報に加え、喫食残品のヒラメからクドア胞子を検出することによって食中毒の確定診断を行いますが、実際の食中毒事件では、ヒラメが残っていない事例が多くあります。そこで、私たちの研究グループでは、クドアを特異的に検出するリアルタイムPCR法(遺伝学的診断法の1つ)を開発し、患者糞便中のクドアDNAの有無を調べて食中毒の診断に応用しています。大阪府で発生したクドアによる食中毒事例では、8件中5件でリアルタイムPCR法を活用して食中毒診断が可能となりました (表1)。このように、リアルタイムPCR法を応用しなければ食中毒の病因物質としてクドアを特定できない事例が多くあると考えられ、全国的にはクドアによる食中毒はもっと多く発生している可能性があります。


 

        確定:喫食残品からクドアを検出
        推定:喫食残品はなかったが、患者便からクドアDNAを検出
        大阪府HPより改変



 クドアによる食中毒では、これまでにヒトからヒトへの感染は報告されていませんので、予防法としては、ヒラメを中心温度75℃で5分以上加熱する、もしくは-15℃〜-20℃で4時間以上凍結してクドアの病原性をなくすこと、あるいは、クドア感染ヒラメを喫食しないことです。しかし、クドアの胞子は大きさが約10μmと小さく、多数の胞子が含まれる偽シストと呼ばれる袋状の構造物(図2、矢印)も小さく肉眼では見ることができませんので、クドア寄生ヒラメを目視で見分けることはできません。ヒラメは生食を基本として流通されますので、クドア寄生ヒラメの流通阻止が、クドアによる食中毒を防止する上で最も重要になります。



 

図2. クドア寄生ヒラメの組織学的写真(HE染色)


 日本においては現在、養殖段階におけるクドア保有稚魚の排除、養殖場における出荷前のモニタリング検査等のヒラメの安全性を確保する取組みが行われています。輸入養殖ヒラメについては、ある特定の養殖業者が輸出するヒラメはクドアの検査を受けることが義務づけられ、さらに、輸入時のモニタリング検査でもクドアの検査が実施されており、クドアが検出されれば冷凍もしくは加熱処理を行った上で販売等を行うように指導されます。

 当所では、安全なヒラメの流通が可能になるように、科学研究費補助金基盤研究(C)に採択された研究として、クドア寄生ヒラメの簡易検出法の開発を行っています。

(細菌課 河合高生)


▲ページの先頭へ