大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第134号− 2014年10月31日発行


ノロウイルスの流行遺伝子型と免疫


 ノロウイルスによる急性感染性胃腸炎は小児から高齢者まで全年齢層が罹患します。しばしば食中毒や施設内集団発生の原因となり、毎冬に多くの患者が報告されます。しかし、ノロウイルス流行には未だに多くの謎が残されています。当所ではノロウイルスが小型球形ウイルス(small round structured virus: SRSV)といわれていた時から急性感染性胃腸炎のノロウイルス疫学調査を実施しており、流行状況は当所のホームページに掲載されています。このたび、我々の10年間の調査報告が国際的な学術誌Journal of Infectious Diseasesに掲載されました。本稿ではその内容の一部を紹介します。

 ノロウイルスには多くの遺伝子型が存在しています。Genogroup Iにはgenotype 1〜9 (GI.1〜GI.9)、Genogroup IIにはGII.1〜GII.22まで分類されています。現在、世界的に流行の中心となっているのはGII.4に分類されるウイルスです。GII.4には数年間隔でvariant(バリアント)株といわれる遺伝子変異株の出現があり、ヒト集団が獲得した免疫から逃れることによって大きな流行を引き起こすと考えられています。大阪府での10年間の調査においても、小児の散発性胃腸炎、食中毒(成人)、高齢者施設における集団発生ではGII.4が毎シーズン流行の主要株でした。いっぽう、保育園や小学校といった小児の集団施設では、GII.4以外の遺伝子型GII.2やGII.3等による発生が多く、流行の中心となる遺伝子型が毎年変化することがわかりました。このほか、本調査では小児におけるノロウイルス再感染症例やノロウイルス集団胃腸炎が同一保育施設で複数回起こった事例をとらえることが出来ました。再感染症例は16患児に認められ、再感染は異なる遺伝子型のウイルスによって起きていることがわかりました。さらに、同一施設における複数回の集団発生においても、集団発生はそれぞれ異なる遺伝子型のウイルスに起因することがわかりました。
 ノロウイルスは細胞で培養できないため、中和抗体(ウイルスを感染できなくする抗体)の活性を検査することができません。従って、感染防御に関する洞察は疫学調査に大きく依存します。我々の疫学調査の結果から、ヒトは幼少期から繰返し多様な遺伝子型のノロウイルスに暴露され、徐々に遺伝子型特異的な免疫を獲得すること、獲得免疫は次シーズンに流行するノロウイルスの遺伝子型に影響を与える持続期間があることが推測されました。この免疫の壁を乗り越えて流行を形成できるのは免疫逃避が可能な変異ウイルスを生みやすいGII.4であると考えられました。我々の知見はノロウイルスの自然感染がヒト集団でどのように起こり、獲得免疫を誘導しているのかを示唆する貴重なものとなりました (図1)。今後もノロウイルス流行のメカニズムを解明するために調査を精力的に進めていきたいと思います。


 

図1. 自然感染におけるノロウイルス感染と抵抗性の獲得モデル


(ウイルス課 左近 直美)


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