大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第135号− 2014年11月30日発行


馬肉に寄生するサルコシスティス・フェアリーが引き起こす食中毒について


 Sarcocystis fayeri(サルコシスティス・フェアリー)はウマの筋肉内に寄生する寄生虫で、これまでヒトへの病原性は知られていませんでした。しかし、平成22年度から開始された厚生労働省の調査研究により、馬肉に寄生するサルコシスティス・フェアリーが、一過性の下痢、嘔気および嘔吐を主徴とする病因物質の一つであることが明らかになりました。この研究の結果から、平成23年6月17日付け食安発0617号「生食用生鮮食品による病因物質不明有症事例への対応について」(厚生労働省医薬品食品局食品安全部長通知)において、サルコシスティス・フェアリーも食中毒病因物質として取り扱うことになりました。
 サルコシスティス・フェアリーは、ウマの筋肉内でブラディゾイトという小さな虫がたくさん詰まった袋状のシストを形成します。シスト入りの筋肉を食べたイヌの腸管内で有性生殖を行ったのち、糞便中に排出されます。イヌの糞便中には、殻に覆われた状態の胞子形成オーシストまたはこのオーシストの殻が脱落したスポロシストと呼ばれる状態で排出されます。そして、このような糞便に汚染された飼料を摂取したウマに再び寄生します(図1)。




図1 サルコシスティス・フェアリーの生活環



 ヒトの場合、サルコシスティス・フェアリーが寄生することはありません。しかし、サルコシスティス・フェアリーが大量に寄生している馬肉を生で食べると一過性の下痢や嘔吐が起こります。ノロウイルスなどとは異なり、サルコシスティス・フェアリーはヒトの体内では増殖することができないため、一過性の症状で収まるものと考えられています。また、発症者から他の人へうつることもありません。
 これまでの国や地方自治体の研究により、適切な冷凍処理を行うことでサルコシスティス・フェアリーは下痢や嘔吐を起こす活性を失うことが判明したため、現在流通している馬肉の多くは冷凍処理がなされるようになりました。その結果、今年になってサルコシスティス・フェアリーによる食中毒事例は全国で一例もなく、昨年も一例のみの発生とごく稀にしか起きていません。サルコシスティス・フェアリーによる食中毒は、原因の調査から対策までの一貫した取り組みによりその防止に成功した好例と言えます。
 このようにサルコシスティス・フェアリーによる食中毒発生数は著しく低下しましたが、今後も発生した場合、馬肉の加工などに問題がないのかなどを調べる必要があります。そのため、当所でも馬肉中のサルコシスティス・フェアリーの遺伝子検査および鏡検法を用いた検査体制を整えています。

図1:農林水産省ホームページ:
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/f_encyclopedia/s_fayeri_qa.html
より引用、写真提供:埼玉県食肉衛生検査センター


(細菌課 陳内理生)


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