大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第136号− 2014年12月28日発行


ジビエの衛生管理指針について


 ジビエとはフランス語 (gibier)で、狩猟により捕獲された野生鳥獣の食肉という意味です。日本においてもイノシシやシカなどは食材として捕獲する文化がありましたが、野生鳥獣保護政策により、最近までは一般的ではありませんでした。近年、高タンパク、低脂肪、ミネラル豊富なシカ肉、ボタン鍋で親しまれているイノシシの肉を中心にジビエが注目されるようになりましたが、生で食べて腸管出血性大腸菌に感染する事例や、冷凍生シカ肉を食べてE型肝炎に感染し、亡くなった事例もあります。また、ツキノワグマの冷凍肉を413名が生食し、60名がトリヒナ症と診断された事例(資料1)もあります。このようにジビエの生食による食中毒事例はあとをたちません。

 食肉についての衛生管理は、と畜場法や食鳥検査法があり、国による衛生管理の規制が設けられています。ところが、ジビエについては、国の統一基準はなく、各自治体によって食品衛生法施行条例等として、野生鳥獣処理加工施設の衛生管理が規定されていました。そこで、厚労省はジビエによる食中毒防止の目的で統一基準を作るために検討会で討議を重ね、今年11月中旬に野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(以下ジビエ指針と略す、資料2)を策定しました。その構成は、野生鳥獣の狩猟時における取扱、野生鳥獣の運搬時における取扱、野生鳥獣の食肉処理における取扱、野生鳥獣肉の加工、調理及び販売時における取扱、野生鳥獣肉の消費時(自家消費を含む)における取扱から成り、それぞれの項目について詳細に記載しています。ジビエ指針は、他の食肉の取扱と違い、やむを得ない状況においての野外での対応も含めた現実的な衛生管理指針となっているのが特徴です。実施時期については、可能な範囲において今年の狩猟期からを目指し、都道府県等において指導を始めます。ジビエ指針と他の食肉の販売の流れとの比較を図1に示します(厚労省のHP「食肉販売の流れ」を参考に作成、資料2)。

 


 ジビエ摂取に由来する食中毒病原微生物として上にも記載しましたが、主なものに腸管出血性大腸菌(喫食後、3日から5日後に下痢、腹痛、時には血便、溶血性尿毒症症候群に至り、死亡する場合もあります)、E型肝炎ウイルス(喫食後、平均6週間の潜伏期の後に発熱、腹痛等の消化器症状、黄疸を伴うこともある肝機能の悪化が現れ、大半の症例では安静により治癒しますが、まれに劇症化し死亡することもあります)、トリヒナなどの寄生虫(トリヒナ症:潜伏期は7日から54日で、痒み、発疹、顔面浮腫、筋肉痛、倦怠感、詳細は資料3)などがあります。しかし、これらの病原微生物は十分加熱することで死滅しますので、ジビエを調理する場合には、中心部の温度が摂氏75度で1分間以上加熱する、また、調理に使用した器具は熱湯などで消毒することを必ず実行してください。

 ジビエの衛生管理指針の背景
 長年に及ぶ野生鳥獣保護政策により野生鳥獣が増加した事と、社会的変化により里山・間伐材利用が激減し、山林と人里の境界線が不明瞭になり、野生鳥獣が人里に出没しやすくなった事から、農作物被害(資料4)、林業被害(資料5)、山林の荒廃と主にシカの採食圧による土砂崩れ誘発地の拡大など環境破壊が膨大になり、野生鳥獣の捕獲が必要になりました(資料6、7)。しかし、捕獲鳥獣の食肉利用率は、10%にも及ばず、利用されない捕獲鳥獣の処理費用(埋却、遺棄)も巨額になりました。そこで、地方自治体が捕獲鳥獣の中でも価値の高い野生のシカ肉、イノシシの肉をジビエに、優れた皮革材料のシカ皮(資料8)を皮革産業に積極的に利用し始めました。ジビエは優れた食品ですが、それを摂取することによる食中毒を防止するため、厚労省が衛生管理指針を策定しました。




参考資料:
 1)冷凍ツキノワグマ肉喫食による食中毒事例
 2)厚労省:健康・医療:ジビエはよく加熱して食べましょう
 3)トリヒナ食品安全委員会
 4)農林水産省 野生鳥獣による農作物被害状況について
 5)林野庁、野生鳥獣による森林被害
 6)野生鳥獣の保護管理など
 7)狩猟および有害捕獲などによる主な鳥獣の捕獲数など
 8)兵庫県森林動物研究センターの「シカの有効活用」パンフレット

(細菌課 依田知子)


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