大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第139号− 2015年3月31日発行


HIV感染は早期診断が重要です


  先日、厚生労働省エイズ動向委員会により2014年の日本国内における新規HIV感染者・エイズ患者報告数が1,520人(感染者1,075人・患者445人)であったと発表されました。ここ数年、これまでのような右肩上がりの増加には一旦歯止めがかかっているように思われますが、依然として新規感染者・患者数は年間1,500人を越える報告があり、高止まりの状態が続いています。

  大阪府でも同じような傾向が見られ、HIV感染者数は図1に示すように2012年の一時的な減少を除けば2008年以降ほぼ横ばい状態となっています。発症するまで自らの感染に気づかないエイズ患者 、いわゆる「いきなりエイズ」の報告数は2010年以降わずかながら減少傾向に転じていますが、新規感染者全体に占める割合(いきなりエイズ率) は残念ながらまだ減少しているとは言い難いのが現状です。


 


  治療薬の進歩により、適切な治療を行えばHIV感染者も健康な人と同じような社会生活を送ることが出来るようになりました。しかし、エイズを発症するまで気づかずにいると、それから治療を始めても十分な効果が得られない場合があるだけでなく、知らないうちに感染を広げてしまう期間がそれだけ長くなるということにもなります。感染者自身のためにも社会全体のためにも、HIV感染の早期診断は重要です。

  大阪府立公衆衛生研究所では、府内の公的検査所(大阪市を除く)や一般医療機関等におけるHIVスクリーニング検査で陽性となった検体について確認検査を行っています。年間100件前後のHIV陽性を確定診断していますが、そのなかで感染後まもない急性感染期(感染後およそ2〜4週間、HIV抗体が陰性または判定保留で核酸増幅検査が陽性の時期)のうちに見つかるケースはほんの数パーセントに過ぎません(図1)。そこで、もう少し期間を広げて感染初期(感染後約6ヶ月以内)に診断されたケースが実際にどの程度あるのかを、BEDアッセイという方法*を用いてより詳しく調べてみました。その結果、大阪府におけるいきなりエイズ率が15.8%と過去最低値を示した2006年には、確認検査陽性検体のBED陽性率、すなわち感染初期と推定される検体の割合は40%と高い値でしたが、エイズ患者報告数の増加に伴ってBED陽性率はやや減少し、その後増減はあるもののほぼ25〜30%程度で推移していることがわかりました(図1)。また、2011年のBED陽性率がその前後の年に比べて高い値であることから、2011年は比較的多くの人が感染初期のうちに診断されたものと考えられました。そのため、少し診断が遅れていれば翌年の感染者数に含まれたかもしれないケースが前倒しで報告されていた、あるいは早期に感染がわかったことによって、知らずにいれば他人に感染させたかもしれないケースを少しでも減らすことができた、などの可能性が考えられ、翌2012年にHIV感染者報告数が一時的に減少した原因の一つであることが推察されました。このように、当所確認検査検体におけるBED陽性率の推移は大阪府のHIV 感染者・エイズ患者の状況をよく反映しているものと考えられます。一方、BED陽性数を年代別に見ると、HIV陽性検体の60〜70%を占める30歳代以下でやはり多くの感染初期例が見つかっていますが(図2)、年代毎のBED陽性率を調べてみると、どの年代も検体中の25〜35%が感染初期で診断されており、年代による大きな差は認められませんでした(図3)。



 


 


  最近の研究から、早期に治療を始めるとより長期に渡って健康な体を維持できることや、パートナーへのHIV伝播リスクを著しく低下させることなどが明らかになってきました。飲みやすく、副作用の少ない治療薬が開発されたことも相まって、現在では感染がわかったら免疫状態に関わらずすぐに治療を始めることが推奨されています。HIV感染の早期診断・早期治療を促進するためには、まず検査を受けられる場所や時間の選択肢を増やして、思い立った時にいつでも検査を受けられるような環境を整えることが重要です (大阪府内の公的検査機関一覧)。
  BEDアッセイによる感染時期の推定は、HIV感染拡大を阻止するための対策が有効に機能しているかどうかを判断するためのツールとして役立つものと考えています。

 * BEDアッセイ:Calypte(R) HIV-1 BED Incidence EIAキット(CALYPTE BIOMEDICAL Co., OR USA)またはSediaTM BED HIV-1 Incidence EIAキット(Sedia Biosciences Co., OR USA)を用いて、血清中の総IgG量とHIV特異的IgG量の比から感染時期(感染後155日以内(Calypte)または197日以内(Sedia)であるかどうか)を推測する方法

(ウイルス課 森 治代)


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