大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第140号− 2015年4月30日発行


検査技術の学習と伝承 ―ビデオ教材の「自作」―


 何か新しいことを学習するときや、人から指導を受けるときに、図や写真・動画を取り入れた視覚的な教材が手元にあると理解に役立ちます。また、逆に自分の知識や技術を他の誰かに伝えるときにも、視覚的な教材が手助けとなります。公衆衛生研究所では、府民の皆さんの「食の安全・安心」を確保するために各種の食品検査を実施していますが、その検査技術の学習や指導・伝承の場面でも同じことが言えます。今回のメルマガでは、「ビデオ教材(動画教材)」をテーマに取り上げて、その現状や将来性などについてお話いたします。
 高速インターネットの普及に伴い、オンライン化されたビデオ教材による学習が、より手軽で身近なものとなりつつあります。「いつでも、どこでも、だれでも」マイペースで学習できるオンラインビデオ教材は、各分野において、従来の学習方法を革新するツールとして有望視されています。
 生命科学の分野では、実験手順や実験手技の情報共有を目指す「JoVE」というオンラインビデオジャーナルが2006年に創刊されています1)。JoVEのWebサイトには、古典的な実験手技から最先端技術までのビデオ教材が掲載されており、従来のジャーナル(学術雑誌)の枠を超えたユニークな試みとして、今後さらなる発展が期待されています。また、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 ライフサイエンス統合データベースセンターの主導により、各種のデータベースやWebツールの使い方を無料のビデオ教材で学べる「統合TV」というWebサイトが2007年から開設されており2)、当所の食品検査・研究業務(遺伝子組換え食品の分析等)を進める上でも役立っています。
 ところで、インターネットが普及する前の時代に、当所食品化学課の業務に関するビデオ教材を制作した例があります。写真1の上側に示した8ミリフィルムとVHSテープは、先輩職員が1980年代初頭に制作したビデオ教材です。これらは、母乳や血液中の残留性汚染物質(PCBなど)の分析法を解説したもので、日本語版と英語版があります。また、写真1の下側は、ナレーション用の手書きの読み上げ原稿です。これらを見ていると、当時の限られた機材や編集技術を用いてビデオ教材の制作に取り組んだ先輩職員の苦労や熱意が忍ばれます。私は当時小学生でしたので、その苦労は想像するしかないのですが、これらの保管史料との出会いは、私がビデオ教材づくりに興味を持ち始めたきっかけの1つになっています。



写真1 1980年代のビデオ教材とナレーション原稿


 平成12年度に実施された全国の地方衛生研究所へのアンケート調査では、将来展望として「初期・専門・特殊の全分野に研修ビデオの作成を希望し、ビデオ研修を定着させるべきとの回答が大勢をしめた。」と総括されています3)。しかし、そのようなビデオ教材の作成・普及には、長年に渡って技術面や心理面での壁(少なからぬ時間と労力が必要であり、実際に取り組む人が少ない状況)があり、現在でも、理化学的な食品検査の学習や研修指導に利用できるビデオ教材は、比較的数少ないのが実情です。一方、撮影機材や編集技術のデジタル化、PCの高性能化などにより、今ではビデオ教材の作成が比較的容易に(研究者自身で)できる時代になりました。
 これらの背景を踏まえて、平成26年度に外部組織からの研究助成4)を受けて、デジタル形式のビデオ教材を幾つか「自作」してみました(写真2)。また、その一部を実際の研修(食品中の発色剤検査の実習)に導入したところ、研修生から、視覚的で分かりやすく、実験操作の流れの理解に役立ったという励ましの声をいただきました。まだまだ、改善すべき点は多いのですが、少しずつ、このようなビデオ教材をつくって、研修指導や情報共有に役立てていければと考えています。




写真2 作成したビデオ教材の1シーン


  1)JoVE: The Journal of Visualized Experiments (http://www.jove.com/)
  2)統合TV「生命科学系DB・ツール使い倒し系チャンネル」(http://togotv.dbcls.jp/ja/)
  3)厚生科学研究費補助金 健康科学総合研究事業「地方衛生研究所の機能強化に関する総合的研究」平成12年度総括研究報告書(主任研究者:加藤一夫)47ページ.
   (http://mhlw-grants.niph.go.jp/niph/search/NIDD00.do?resrchNum=200000845A)
  4)公益財団法人大同生命厚生事業団 平成26年度 地域保健福祉研究助成「食の安全・安心に係る理化学試験のオンラインビデオ教材の開発」
   (http://www.daido-life-welfare.or.jp/subsidize/welfare/results.htm) 

(食品化学課 阿久津和彦)


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