大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第145号− 2015年9月30日発行


大気中に存在するガス状亜硝酸について

 古い衣類が黄ばむことがありますが、市販されている防虫剤の注意書きに「窒素酸化物が衣類に付着し、そのまま保管された時に黄ばみが発生します。」と記載されているように、衣類の黄ばみには大気中に存在するガス状の窒素酸化物が関係しています。
 窒素酸化物とは、窒素原子(N)と酸素原子(O)が結合して生成される物質の総称で、大気汚染の分野で窒素酸化物といえば二酸化窒素(NO2)と一酸化窒素(NO)のことを指し、二酸化窒素が大気汚染防止法で規制されています。但し、本来は、窒素原子や酸素原子を含む物質に白金触媒と水素を加え一酸化窒素になるものを窒素酸化物と呼んでおり、亜硝酸(HNO2)も窒素酸化物に含まれます。また、大気汚染防止法で規定されている測定法では亜硝酸も二酸化窒素として間違って検出されています。
 我々は、亜硝酸の動物曝露実験や疫学的な調査を実施し、二酸化窒素が原因と考えられていた喘息への影響は亜硝酸が原因である可能性を示し、亜硝酸に関するさらなる研究や調査が必要であることを示してきました(注1, 2)。また、窒素酸化物による着色については、我々の二酸化窒素や亜硝酸の動物曝露実験では、同様の濃度では二酸化窒素より亜硝酸の方が動物の毛を濃く着色します(写真)。
 この様に、大気中の窒素酸化物には反応性や生体影響がありますが、亜硝酸のことが考慮されていない現在の二酸化窒素規制については、改正を検討する必要があると我々は考えています。
 亜硝酸の化学的な反応としては、有機化合物をニトロソ化(有機化合物にNOを導入する反応)し、特に、亜硝酸が2級アミン(アンモニア(NH3)の水素原子二つを炭化水素を含む基で置換した化合物)と反応した場合は発癌物質であるニトロソアミン(黄色っぽい色の物質が多い)が生成されます。2級アミンの例には、タバコの煙に含まれるニコチンがあります。近年、実験的に車内で喫煙し、車のシートからニコチン由来のニトロソアミンを検出し、シートに付着したニコチンと大気中の亜硝酸が反応した結果して報告されており(注3)、タバコ煙の3次喫煙として問題になっています。
 タバコの副流煙(たばこの先から立ちのぼる煙)は主流煙(本人が吸う煙:1次喫煙)より有害物質が多く、受動喫煙(他人が吸うタバコの煙に曝露されること:2次喫煙)で肺癌の危険度が上昇することが疫学調査で示されています。しかし、タバコ煙の動物曝露実験は、副流煙も含め世界中で実施されましたが、動物が発癌した報告は未だにありません。従って、副流煙成分だけでなく、タバコ煙中のニコチンが壁などに付着し、大気中の亜硝酸と反応してニトロソアミンになることが受動喫煙の肺癌危険度上昇の原因かも知れません。また、喫煙場所などのタバコ煙が付着した壁などは茶色くなっていますが、タバコ煙の動物曝露実験では、ヤニでベトベトになってもあのような茶色にはなりません。動物曝露実験では閉鎖環境で活性炭などで浄化された空気を用いて目的物質を曝露しますので、本来のタバコ煙の発癌性は動物曝露実験ではまだ認められていないという状況です。我々は、一般的な環境で人々がさらされ得るタバコ煙に由来する物質で発癌するのかを動物曝露実験で検討する必要があると考え、タバコ煙中のニコチンと大気中の亜硝酸との反応を考慮して、今後、タバコの副流煙と亜硝酸の混合曝露を実験動物に対して行い、腫瘍が発生するのかを調べる予定をしています。




写真 高濃度亜硝酸曝露によるモルモットの毛の着色
    写真左:清浄空気群 写真右:亜硝酸曝露群(大気中の約1000倍の濃度)
(動物の黄色い点は動物を識別するために着色した目印)




注1 公衛研ニュース43号 http://www.iph.pref.osaka.jp/news/vol43/news43_2.html
注2 公衛研ニュース53号 http://www.iph.pref.osaka.jp/news/vol53/news53_1.html
注3 Sleimanら、2010. PNAS 107:6576-6581
        http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2872399/

(生活環境課 大山正幸)


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