大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第149号− 2016年1月31日発行


非結核性抗酸菌感染症

○非結核性抗酸菌感染症が増えています
 結核の原因となる結核菌は抗酸菌と呼ばれる菌の仲間です。抗酸菌のうち結核菌とライ菌以外のものを「非結核性抗酸菌」と呼びます。非結核性抗酸菌感染症はヒトからヒトへ感染しないために 感染症予防法の対象となっておらず、日本での発生数は把握されていません。病院の患者数等から算出された推定罹患率は、2000年前後では人口10万人あたり5〜6でしたが、2014年度厚生労働科学研究委託の結果では14.7と急増し、結核の罹患率(2014年日本全体で15.4/ 10万人)とほぼ並ぶほどになっています。日本では、結核が徐々に減っている一方、非結核性抗酸菌感染症は増えているのです。

○非結核性抗酸菌感染症とは?
 非結核性抗酸菌は100種類以上あり土壌や河川など環境中や動物などに広く存在しています。そのうちヒトに病原性のあるものは20種類以上あります。表は2005年から2014年の公衛研での非結核性抗酸菌同定結果です。このように種々の非結核性抗酸菌が感染症の原因となります。
 非結核性抗酸菌は結核菌と同様に肺、腸や皮膚など全身に感染症をおこしますが、最も多いのが肺疾患です。非結核性抗酸菌感染症の9割近くはMycobacterium aviumM. intracellulareの2菌種が原因です。この2菌種は非常によく似た菌なので合わせてM. avium complex (MAC) と呼ばれています。のこり1割の大部分がM. kansasiiという菌によって起こり、残りが多種の非結核性抗酸菌によって起こっています。M. kansasiiは抗結核薬が有効ですが、他の非結核性抗酸菌には抗結核薬が効きにくく、クラリスロマイシンを中心にした多剤併用療法を1年以上続ける必要があります。
 胸部画像所見では結核か非結核性抗酸菌感染症かの判別がつきにくいため、非結核性抗酸菌感染症の診断には菌の同定が必要となります。当所では分離菌株の遺伝子配列を調べることにより菌の同定を実施しています。

○なぜ非結核性抗酸菌感染症が増えてきているのか?
 MAC感染症には、結核のように肺に空洞ができるタイプと肺の下部に小結節と小気管支の拡張がみられるタイプがあります。空洞のできるタイプは肺に結核などの既往症のある男性に、小結節タイプは特に基礎疾患のない中高年の女性に多くみられます。近年増加しているのは小結節タイプのMAC感染症です。
 MAC感染症がなぜ健康な中高年女性で増加しているのか、現在種々の機関で研究中です。公衛研と大阪市立大学の共同研究で、MAC感染症患者さんと健康な人の住環境中の非結核性抗酸菌を調査したところ、MAC菌以外の非結核性抗酸菌は台所やエアコンなどいろいろなところから検出されましたが、MAC菌は浴室からしか検出されませんでした。このことから、MAC菌は浴室の環境に住み着きやすいと考えられます。浴室からMAC菌が検出されたケースのうち約半分のケースでは、患者さんのMAC菌と浴室から検出されたMAC菌の遺伝子型が一致しました。この研究の結果では、浴室の菌が患者さんの病気の原因となったのか、患者さんから排出された菌が浴室に住み着いたのか区別できなかったため、浴室がMAC感染症の感染源であるかどうかを明らかにするにはさらなる調査が必要です。しかし、MAC菌は浴室だけから検出されているので、MAC菌を増加させないように浴室を清潔にして乾燥させることがMAC感染症防止につながると考えられます。



(細菌課 田丸亜貴)


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