大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第150号− 2016年2月29日発行


近年の黄色ブドウ球菌による食中毒


 黄色ブドウ球菌はヒトや動物の皮膚や消化管などに常在する菌ですが、食品に付着して増殖しやすい温度に一定時間放置された場合にエンテロトキシンという毒素を産生することがあります。このエンテロトキシンに汚染された食品を喫食すると、嘔気、嘔吐、腹痛などの食中毒症状を起こします。
 典型的な黄色ブドウ球菌による食中毒の原因食品として「おにぎり」があります。「おにぎり」は喫食まで常温で保存・携帯されることが多い食品ですが、調理時に手指などから菌に汚染されやすい食品でもあります。夏期など気温が高い季節には、菌が増殖してエンテロトキシンが産生され食中毒につながります。この発生様式は日本の伝統的な食の風習と合致してきたことから、「おにぎり」を原因食品とする小規模な食中毒は古来、多数発生してきたものと思われます。

 2001年以降の日本国内での黄色ブドウ球菌による集団食中毒の発生状況をみると事例数は減少傾向にありますが、患者数は概ね横ばいです(図1)。しかし1事例あたりの患者数の平均を2012〜2014年とその約10年前の2001〜2003年の各3年間で比較すると、30.4人と17.5人であり、近年はやや増加しています。



図1. 黄色ブドウ球菌食中毒の事例数と患者数の推移
(厚生労働省食中毒統計資料をもとに作成)


 では1事例あたりの患者数が増加した原因はなんでしょうか。近年発生した事例をみると物産展の鰻弁当や野外イベントのチャーシュー丼のように「食のイベント」で販売された「どんぶり弁当」というキーワードが浮かび上がります。これらの事例では、黄色ブドウ球菌に汚染された食品が、適切な温度管理をされずに販売されていたことで食中毒が発生したと考えられました。また、災害救援のためにつくられた「おにぎり」による食中毒事例の発生もあり、大量調理を行う機会の増加が、事例あたりの患者数の増加につながっていると考えられます。

 黄色ブドウ球菌エンテロトキシンは耐熱性が高く、いったん産生されると、再加熱によって菌は死滅しても、エンテロトキシンの毒性は保持されます。つまり、黄色ブドウ球菌による食中毒は「再加熱で防止できない」のです。2000年6月に発生した低脂肪乳等による患者数14780人にも及ぶ大規模食中毒事件(図1)では、製造過程に加熱工程があり菌が死滅していたにもかかわらず、それまでにエンテロトキシンが産生されていたために食中毒が発生しました。
 黄色ブドウ球菌による食中毒を予防するためにはエンテロトキシンを産生させないこと、すなわち、エンテロトキシンを産生する菌数まで菌を増殖させないことが重要です。調理後はできるだけ早く喫食することを心がけ、やむを得ず保存する場合は短時間でも保冷剤や冷蔵庫を利用しましょう。また、調理の際、特に大量調理を行うときはビニール手袋やラップを使用し、食品に手指などの菌を付着させない工夫も大切です。最近では暖房設備や食品の保温設備の発達などによって、黄色ブドウ球菌による食中毒は少数ながら冬期にも発生しているので注意が必要です。

(細菌課 余野木伸哉)


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