大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第162号− 2017年2月28日発行


大阪府内の浄水場における浄水処理対応困難物質の実態調査について

 平成24年に発生した利根川水系におけるホルムアルデヒドの水質事故を契機に、厚生労働省は平成27年3月、通常の浄水処理により水質基準項目に係る有害物質等を高い比率で生成する物質を「浄水処理対応困難物質」として位置付けました(平成27年3月6日健水発第0306第1〜3 号)。これらの物質の詳細は、大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph第141号 に記載されています。しかし、この通知には、浄水処理対応困難物質の検査法が示されていないため、水道原水および浄水中における存在実態はほとんどわかっていないのが現状です。そこで当所では、浄水処理対応困難物質14種の内、分析法が確立されている臭化物を除いた13種の化合物の分析法について検討しました。そして、開発した分析法を用いて大阪府内の浄水場を対象に、水道原水および浄水における存在実態を調査しました。
 まず分析法の開発についてですが、浄水処理対応困難物質の多くは水溶性が非常に高く、通常の前処理で行われる固相カートリッジによる水道原水および浄水からの抽出は極めて困難でした。そのため、試料水からの抽出操作を行わずに直接試料中の測定対象物質を分析する直接注入-高速液体クロマトグラフ-質量分析(直接注入-LC/MS/MS)法という方法を用いて分析条件を検討しました。直接注入-LC/MS/MS法は、図の様に特別な濃縮精製操作を行わずに分析装置に試料を導入して測定する方法です。この方法の利点は、操作が単純なため迅速性に優れていることです。一方で、分析感度を向上させにくいことと、サンプルに含まれている常在成分によって測定したい成分の感度が変動しやすい(マトリックス効果)という欠点があります。私たちは、分析感度を上げるためには試料の注入量が重要なファクターとなると考え、試料を大量に注入できる分析カラムを用いることにしました。そして、マトリックス効果による感度の変動を抑制させるために、サンプルに内部標準物質を添加して感度を補正する内部標準分析法*を採用することにしました。その結果、分析対象とした13物質の内、10物質**を精度良く分析することが可能となりました。
 続いて、この分析法を用いて大阪府内の浄水場を対象に実態調査を実施しました。大阪府内の水源を広く網羅するために、30施設の浄水場を対象に平成27年7月および平成28年1月の同一時刻帯に水道原水および浄水を採取して分析を実施しました。結果は、いずれの物質も夏季および冬季において水道原水・浄水ともに定量下限値未満となり、府内において問題になるほどの浄水処理対応困難物質は存在していないことが明らかになりました。なお本調査は、大阪府健康医療部環境衛生課からの依頼調査である平成27年度大阪府水道水中微量有機物質調査によって実施されました。詳細につきましては、ホームページを参照してください。(http://www.pref.osaka.lg.jp/kankyoeisei/biryoyuki/index.html)
 今回開発した分析法は迅速性に優れた方法であるため、上記の実態調査以外にも水質事故時等の緊急時対応にも有用な方法であると考えられます。現在は、残る3物質についても精度良く分析できるように検討を行っています。また、この分析方法を用いて水道事業体と連携して浄水処理による処理性調査を実施し、より安全な水道水を提供するための知見を集めています。





図 直接注入LC/MS/MS法のフロー



  *試料には含まれない分析目的物質と異なる標準物質を試料に一定量添加し、目的物質と内部標準物質の応答値の比を算出することにより分析ごとの変動を最小限に抑えて測定精度を上げる手法
 **ヘキサメチレンテトラミン、1,1-ジメチルヒドラジン、N,N-ジメチルアニリン、トリメチルアミン、N,N-ジメチルエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、1,3-ジハイドロキシルベンゼン、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン、2'-アミノアセトフェノンおよび3'-アミノアセトフェノン

(生活環境課 吉田 仁)

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