2006427日 第32

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目次

*お知らせ

 「大阪府感染症情報センターの設置」

*大阪の感染症サーベイランス情報

 「4月の感染症」

*シリーズ「バイオテロとその対策」

 「はじめに」

 「1、ブルセラ症

*研究の窓から

 「農薬等のポジティブリスト化に伴う検査の精度管理に関する研究」

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*お知らせ

 

「大阪府感染症情報センターの設置」

 

 我が国の感染症対策の根幹を成すのは感染症法(正確には「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)で、この法に感染症の発生状況及び動向の把握を行う事が明記されています。これを受けて、各都道府県では感染症情報センターを設置して感染症発生動向調査事業を行うこととなっています。地方感染症情報センターは地方衛生研究所等の中に設置するとなっていますが、大阪府ではこれまで健康福祉部健康づくり感染症課の中に置いて、感染症の発生状況や動向などの情報収集を行ない情報の解析とグラフ化は当研究所で実施してきました。しかし、SARS、ウエストナイル熱、鳥インフルエンザなどの新興再興感染症やバイオテロなど、感染症に係わる新たな問題が次々と浮上し、感染症情報センターの効率化と機能アップが求められるようになりました。そこで本年4月より、センターの機能を一元化するため当研究所に大阪府感染症情報センターを設置する事になりました。これにより、府内の医療機関から報告される患者情報と、当研究所で実施している検査情報を一体化することが可能となり、より迅速で高度な情報が発信できるメリットが生まれました。患者情報は毎週集計され、これを基に大阪府、大阪市、堺市、東大阪市、高槻市が協力して毎週開催している解析小委員会でコメント作成を行っています。これら患者情報は当研究所のホームページに毎週更新して掲載され、大阪府の感染症の状況がリアルタイムに把握できるものになっています。通常の感染症情報に加えて重要なのは、今までにない感染症が発生した場合の情報発信です。例えば、SARS、鳥インフルエンザ、ノロウイルスなどという聞きなれない言葉が出てきた場合、その本質を正確で分かりやすく情報提供するのもセンターの役割と考えています。当研究所には各種感染症に対応できる専門家が揃っており、最新情報について解説を加えて迅速に提供できる態勢を整えています。感染症は時間的、地理的にもダイナミックに変化しており、現状だけでなく、過去の事例や将来予測も含め、当センター独自の視点で発信したいと考えています。府民に信頼される感染症情報センターとして発展できるよう、職員が一体となって努力いたしますので、ご支援のほど宜しくお願い申し上げます。  (感染症情報センター長  奥野良信)

 

*大阪の感染症サーベイランス情報

 

4月の感染症」

 

 2006年第15週(410日から416日)の定点あたり報告数の上位3疾患は感染性胃腸炎(6.2)、水痘(2.1)、A群溶連菌咽頭炎1.3)でした(()内は定点あたり報告数)。感染性胃腸炎は前週比3%、水痘は7%、A群溶連菌咽頭炎3%の増加でした。http://www.iph.pref.osaka.jp/infection/index.html参照

感染性胃腸炎は第1週以降ほぼ横ばいで経過しています。3月、4月の病原体定点病院の検体からはノロウイルスが2例、A群ロタウイルスが12例、サポウイルス、アデノウイルス40/41型が各1例検出されています(420日現在)。小児科定点を受診する感染性胃腸炎患者からノロウイルスが検出される数は減少したものの、食中毒事例や小学校や施設の胃腸炎の集団感染事例ではノロウイルスが原因として検出される事例が続いており、引き続き注意が必要です。

水痘は依然として流行が続いており、特に南河内、中河内、大阪市南部、泉州、大阪市北部では定点あたり2.0を超えています。予防に有効なワクチンも任意で受けることができますので未感染の方は主治医の先生とご相談下さい。

咽頭結膜熱は定点あたり0.4で第6位ですが、3月、4月にアデノウイルス1型、2型が各1例、アデノウイルス3型が4例検出されています。全国的に前年の同時期に比べ咽頭結膜熱の報告は増加しており、今後夏の流行期にかけて注意が必要な疾患です。

 

 4月から「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づく感染症の届出の基準や様式が一部変更になっています。医師、獣医師の方はご注意ください。新しい基準と様式は大阪府や厚生省のホームページからダウンロードできます。

(http://www.pref.osaka.jp/chiiki/kenkou/kansen/survei/index.html)(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/kansensyo/index.html)届出について不明な点は所轄の保健所までお問い合わせ下さい。 (ウイルス課 宮川)

 

定点*大阪府内の感染症発生動向を把握するために、インフルエンザは303ヶ所、感染性胃腸炎、水痘などの小児科疾患は195ヶ所、流行性角結膜炎などの眼科疾患は52ヶ所の医療機関が定点となって、毎週患者数が報告されています。

 

*シリーズ「バイオテロとその対策」

 

「はじめに」

 

 生物剤とは広く動植物に損傷を与える目的で使用される細菌やウイルスなどの微生物あるいはそれらが産生する毒素のことと定義されます。人類史上、古くから生物剤はたびたび戦争に使われてきました。近年では2001年10月、アメリカで郵便物による炭疽菌テロ事件が発生し、わが国、大阪府でも模倣した白い粉事件が続発し、危機管理体制の構築の重要性が再認識されました。生物剤がテロ攻撃に有利な手段と考えられているのは 1.入手や製造が比較的容易で安価である 2.発見が困難で一度に多くの死者発生が期待できる 3.遠距離からでも散布が可能 4.使用するだけでもパニックに陥れることが可能である などです。アメリカCDCやWHOは30ほどの生物剤のリストをあげ、伝染性や致死率などの観点から3段階に対策の優先度を設定しています。大阪府では平成16年に、天然痘対策マニュアルを策定しています。今回当研究所では対策優先順位の高い、天然痘、炭疽、野兎病、ブルセラ症について検査態勢をほぼ確立しました。順次これらの疾患についてお話ししたいと思います。 (ウイルス課 高橋)

 

1、ブルセラ症」

 

 ブルセラ症はブルセラ属の細菌のうちBrucella. melitensis(自然宿主:ヤギ、ヒツジ)B. abortus(ウシ)B. suis(ブタ)B. canis(イヌ)が人に感染して発症する人獣共通感染症です。感染症法では4類感染症*に分類されており患者および無症状病原体保有者はすべて届出の対象となります。

 

【感染源】ブルセラ症は本来動物の病気で、流産・死産を伴う伝染性の疾患ですが、特徴的な臨床症状がない状態で終生持続感染する場合も多く認められます。感染動物は菌血症を起こしており、雌では乳汁中へ多量の菌を排泄します。人への主な感染経路は汚染した生乳、乳製品、肉類の加熱殺菌不十分なままの摂取、動物あるいは死体や流産時の汚物との接触です。またブルセラ属菌は人に対して10100個の菌で感染することから、実験室内感染も散発的に認められています。同様の理由で生物兵器への使用も考えられる細菌です。

 

【発生】ブルセラ症は世界的に分布しており、特に地中海沿岸地域、アラビア海沿岸地域、アフリカ、中南米で患者が多く発生しています。患者発生の多い地域は食料や社会・経済面で動物への依存度が高く、またブルセラ対策も十分に行われていない国が多いようです。先進国では保菌動物の摘発淘汰(Test and Slaughter)の施策により清浄化が進んでおり患者発生は少なくなっています。わが国でもB. melitensisB. abortusB. suisに関しては清浄化していると考えられています。しかし、イヌのブルセラ菌(B. canis)汚染は低率ですが認められています。2003年には静岡県内のイヌ繁殖施設におけるイヌの集団感染の報告もありました。イヌのブルセラ菌は人に対する感染性および病原性が他の3菌種と比べて弱いとされ、この事例においても施設従業員、診断した獣医師への感染は認められませんでした。1999年以降のブルセラ症の届出は20021(東京都:国内発生)20052(東京都:感染推定シリア、長野県:国内発生)20061(東京都:感染推定エジプト)の計4例です。

 

【症状】ブルセラ菌はあらゆる臓器に感染し全身症状を引き起こします。症状としては発熱、悪寒、倦怠感、関節痛などが認められますが、特徴的な症状がなく他の熱性疾患、風邪などとの鑑別は難しく、診断が困難であることが少なくありません。慢性型では発症後数年間にわたり全身倦怠感、微熱、関節痛が続く場合もあります。

 

【診断・検査】特徴的な症状がなく臨床診断が困難な細菌感染症の場合、細菌学的な検査は非常に重要になります。しかしブルセラ属菌は培養が難しく、菌の検出、同定といった従来の細菌検査法では検出が困難です。このような場合であっても培養法に加え、遺伝子検出法、血清診断を組み合わせることで診断率は向上します。ブルセラ症は慢性の経過をとり、診察時にすでにブルセラ抗体を保有している場合が多く見られることから、血清診断を行うことは非常に有用です。また培養により生菌を得ることが困難であっても、血液などの採取検体中のブルセラ属菌特異遺伝子の検出、血液などの検体を培養した培養液からの遺伝子の検出が可能である場合があり、これらの結果を総合的に判断することにより診断が可能になることがあります。

ブルセラ症のように臨床診断が難しく、また検査も困難な希少感染症の確定診断には臨床と検査の連携が非常に重要になります。当所ではブルセラ症の検査法を確立し、医療機関との連携がスムーズに行えるよう態勢を整えております。 (細菌課 勝川)

 

4類感染症*:「動物又はその死体、飲食物、衣類、寝具その他の物件を介して人に感染し、国民の健康に影響を与えるおそれがあるもの」と定義され、人から人への感染はほとんどない。

 

研究の窓から

 

農薬等のポジティブリスト化に伴う検査の精度管理に関する研究

 

平成155月の食品衛生法の改正により、いよいよ平成18529日から「農薬等のポジティブリスト制」がスタートします。この改正に伴い、対象となる農薬数は現行の制度の250種類から516種類(動物薬、飼料添加物も含めると799種類)に倍増し、検査機関では食品に残留する多くの農薬を測定する必要に迫られています。施行後はポジティブリストにない農薬が残留した場合やポジティブリストにあっても基準値を越えた場合は、原則として食品の販売などが禁止となります。そのため検査結果により、輸入食品の場合は国際問題に、国内でも裁判に発展する可能性があります。検査データの信頼性が厚生労働省や地方行政機関などの多方面から問われることになり、検査精度の確保は重要な課題です。そこで、農薬等のポジティブリスト化に伴う検査機関の検査精度の現状を把握するために平成17年度から、当所も含め9つの地方衛生研究所の参加協力を得て、外部精度管理調査を実施しています*。ここでは、第1年目の結果を報告します。

外部精度管理は、添加されている農薬の種類および濃度を知らされていない同一試料を各機関が測定することにより行います。これによって自機関の測定値の正確度を知ることができます。

精度管理に用いる試料は大量に確保しなければならないので、市販品のトマトジュースや野菜ジュースあるいは、レッドピーマンとジャガイモの業務用冷凍磨砕ミクロペースト状食材を用いました。農薬は、参加機関が検査している数多くの農薬の内23項目を選び、この中から3,4種類を添加しました。検査試料の調製方法の妥当性、均質性および安定性について検討を行い、それらが確認された適正な試料を参加機関に配布しました。実施方法は、各機関の農薬検査標準作業書に従って5回の検査を実施することとしました。

結果は、添加した農薬の種類を全機関が正確に言い当てていました。農薬の濃度に関しては、全体的な平均値は良好な結果が得られましたが、品質管理などに用いられているXbar-R管理図による方法や各機関における検査精度の相対的な判定に有効なZスコアによる方法で評価したところ、適正域に入っていない機関がある一方で、すべてパーフェクトであったところが2機関ありました。この要因について探索的データ分析(ビジュアルデータマイニング:視覚化データ処理技術)の手法を用いて解析したところ、特に担当者の農薬検査の経験年数、抽出回数、最終検液量・検量線濃度などのガスクロマトグラフィーへの負荷の程度などが関与して精度に影響を及ぼしていたと考えられます。

このように本研究が各機関の農薬検査標準作業書の偏りや測定値の傾向が捉えられたことが成果であり、各機関の検査水準の把握ならびに分析技術の確認・向上を知る上で有意義であると思われます。食品の安全性確保が高まっているなかで、残留農薬の検査は重要であり、その検査データの信頼性の向上に貢献していきたいと考えています。 (食品化学課 村田)

 

*:厚生労働科学研究費補助金研究、食品の安心・安全確保推進研究事業「検査機関の信頼性確保に関する研究」の分担研究「農薬等のポジティブリスト化に伴う検査の精度管理に関する研究」として行っている。

 

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