2007629日 第46

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目次

今月の話題

  「水道水中のパーフルオロオクタン酸(PFOA)」

*研究の窓から

 「新規HIV感染者における薬剤耐性ウイルスの検出頻度」

*大阪の感染症サーベイランス情報

「6月の感染症サーベイランス情報」

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*今月の話題

「水道水中のパーフルオロオクタン酸(PFOA)」

 

 20075月、パーフルオロオクタン酸(PFOA)による水質汚染が京阪神地域で起こっていると新聞などで報道されました。また、同時に水道水からの検出も報道され、この新たな汚染に対し関係者は注目することになりました。今回はこのPFOAについて説明します。

PFOAは人工的に合成された化合物で、自然に存在するものではありません。フッ素系の界面活性剤の一種であり、撥水剤やフッ素樹脂製品の製造などの用途に幅広く使用されています。PFOAの構造式を図1に示します。炭素原子(C)とフッ素原子(F)の結合が非常に強いため、PFOAは環境中や生体内で分解されにくく、また、生物に対して蓄積性があることから、近年新しい環境汚染物質として関心が持たれています。その毒性は、動物実験で発がんとの関連が指摘されていますが、ヒトへの毒性に関しては今のところはっきりとはわかっていません。現在、詳細なリスク評価が米国の環境保護局(EPA)において行われているところです。また環境汚染の発生源についても、下水放流水やPFOA以外の有機フッ素化合物からの分解などが考えられていますが、はっきりとはわかっていないのが現状です。

 公衆衛生研究所では、従前より行政と連携し、飲料水の安心と安全確保のために、水道水源(原水)および水道水(浄水)中の微量有機物質の中で特に法的に規制されていない色々な物質を対象に調査を行っています。平成18年度にはこのPFOAを対象に選び、調査を実施しました。その結果、PFOAは微量(ng/Lレベル)ですが、すべての原水および浄水試料から検出されました。現在、我が国ではPFOAに関する水道水質基準等は設定されておりません。しかし、米国EPAと企業側との間で設定されたアクションレベル(500 ng/L)「水道水においてこのレベル以上のPFOAが検出された場合は、企業側は水道水の浄化や代替水源に責任を持って行うという基準」から判断すると、今回の調査で検出されたPFOAの濃度は、かなり低い濃度でした。したがって、水道水を飲むことにより健康影響がでる可能性は低いと考えられます。また、当所では平成15年から淀川水系を対象にPFOAのモニタリングを行っておりますが、このアクションレベルを超える濃度は検出されておりません。

なお、今後ともPFOAに関する情報収集や調査を継続して行うほか、水環境中の濃度分布や挙動について研究し、汚染の低減化や安心安全の確保に努めたいと考えています。

1PFOAの構造式

ng:ナノグラム。1 ng10億分の1グラム。

                                 (環境水質課 高木)

 

*研究の窓から

「新規HIV感染者における薬剤耐性ウイルスの検出頻度」

 

 最初の抗エイズ薬であるAZTがエイズ患者の治療に使われるようになったのは、今からちょうど20年前、1987年のことでした。以来、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)が持つ酵素(逆転写酵素、プロテアーゼ)を標的としたエイズ治療薬が次々と開発され、現在我が国では約20種類の薬剤が臨床の場で使用されています。それらを複数組み合わせて服用する多剤併用療法の普及によりHIV感染者/エイズ患者の予後は著しく改善され、HIV感染症はもはや死に直結する病気ではなくなりました。今では、多くの感染者が日々の服薬と数ヶ月に一度の通院のみで通常の日常生活を送っています。しかしその一方で、薬を飲み忘れたり飲み方が不規則であったりすると、容易に薬剤耐性HIVが出現するため、治療困難に陥ってしまう例も少なくありません。さらに最近では、治療中の感染者だけでなく、新しく感染が確認された治療歴のない新規感染者の中にも薬剤耐性HIVに感染している例が見つかるようになりました。これは、耐性ウイルスを保有している既治療感染者からの伝播であると推察されます。欧米諸国では、新規HIV-1感染者の827%に薬剤耐性ウイルスが検出されるとの報告がありますが、我が国ではこれまで積極的な調査がなされてきませんでした。そこで今回、厚生労働科学研究補助金エイズ対策研究事業において、新規感染者における薬剤耐性HIV-1の発生動向について全国規模での疫学調査を実施することとなりました。以下に、私達がその分担研究者として担当した大阪地域の調査結果をご紹介します。

 薬剤耐性検査には、HIVの遺伝子配列を調べて薬剤耐性に関連するアミノ酸変異を検出しそのパターンから耐性の有無を推測するgenotype法と、HIVを薬剤と共に培養しHIVの増殖を阻止する薬剤濃度を測定するphenotype法がありますが、今回は比較的簡便かつ短期間で結果が得られ、一般的な実験室で検査が実施できるgenotype法を用いて調査を行いました。

 2003年から2006年の4年間に感染が判明し医療機関を受診した新規HIV-1感染者80名、およびHIV抗体確認検査で陽性が確認された213例を対象に薬剤耐性検査を実施した結果、それぞれ3例(3.8%)および12例(8.0%)において耐性獲得に重要とされるアミノ酸変異が検出されました(全国規模の調査では4.9%)。その中でも、AZTなどの核酸系逆転写酵素阻害剤に対する耐性関連変異であるT215XX:C,D,E,S)は近年著しい増加傾向にあり、特に確認検査陽性検体において高頻度に検出されています(20031例、20055例、20066例)。これらT215X変異を持つHIVの遺伝子配列を解析した結果、大阪地域で感染拡大しているT215X変異HIVは遺伝的に近い、つまりよく似たウイルス集団であることがわかりました。さらに、この変異ウイルスが検出されたグループには男性同性愛者が少なからず含まれていることから、T215X変異HIVがゲイコミュニティを中心に大阪地域で感染拡大しつつある可能性が示されました。

 薬剤耐性HIVに感染すると、耐性となっている薬剤の治療効果は期待できません。耐性ウイルスの存在を知らずに治療を始めると、効果のない薬剤を服用することになりかねず、その場合併用している他の薬剤の治療効果も弱まってそれらに対する耐性を誘導しやすくなり、最終的には治療失敗へとつながります。感染者自身のためにも、また効果のない薬剤を使うといった医療費の無駄をなくすためにも、新規感染者の薬剤耐性検査は重要であると考えています。

                                 (ウイルス課 森)

 

 

*大阪の感染症サーベイランス情報

「6月の感染症」

 

2007年第24週(611日から617日)の定点あたり報告数の上位3疾患は、感染性胃腸炎(5.8)、水痘(2.5)、A群溶連菌咽頭炎(2.0)でした(()内は定点あたり報告数)。感染性胃腸炎は前週比17%、A群溶連菌咽頭炎は19%減少し、水痘は23%増加しました。(http://www.iph.pref.osaka.jp/infection/index.html参照)

感染性胃腸炎の5月以降の病原体定点機関の検体からはA群ロタウイルスが3例、サポウイルスが2例検出されています(620日現在)。

麻しん(はしか)は11例の報告があり、基幹定点からの成人麻しんは1例でした。府内の麻しん患者数は昨年に比較して高い値で推移しており、今年に入ってからの小児科定点からの麻しん報告と基幹定点からの成人麻しん報告は合わせて83例で、すでに昨年1年間の26例を大きく上回っています。また定点医療機関以外からの情報も加えると府内で少なくとも350名の患者が報告されています(620日現在)。今年の流行の特徴として比較的高い年齢層の患者が多く、府内の高校でも集団感染が報告されています。全国的な患者報告は減少しているものの、流行が早くから始まり規模も大きかった関東の患者数の影響によるものが大きいと考えられ、府内では引き続き注意が必要です。

さて気温が高くなるこの季節は例年細菌性の食中毒による胃腸炎が増加する季節です。調理前や食事前の手洗いを確実に行うことや、食品は充分に加熱し、調理後に長時間放置しないなど食べ物の取り扱いには充分に注意しましょう。今年に入ってからの腸管出血性大腸菌感染症の患者報告は44例と昨年の同時期に比較すると少ないものの、5月以降増加しています(620日現在)。昨年の発生届やその後の調査によると、発症者の3割以上が発症前1週間以内に生レバーやユッケなど肉を生食しています。今年は溶血性尿毒症症候群を発症した小児の事例もすでに3例報告されており、重症化する確率の高い幼児や、高齢者に肉の生食をさせないようご注意をお願いします。

                               (ウイルス課 宮川)

 

定点*:大阪府内の感染症発生動向を把握するために、インフルエンザは304ヶ所、感染性胃腸炎、水痘などの小児科疾患は197ヶ所、流行性角結膜炎などの眼科疾患は52ヶ所の医療機関が定点となって、毎週患者数が報告されています。

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