2004年1月30 日 第5号        
    目次
・ 巻頭言 
・ 今月の話題
1)鳥インフルエンザ -家禽ペスト-
2)液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)による水道水中の農薬類の検査
・ 研究の窓から
 「不特定多数利用施設での結核感染と遺伝子型別」
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 明けましておめでとうございます。穏やかなお正月が過ぎたと思ったら、SARS、鳥インフルエンザのニュースが入り、年末のBSEから感染症問題が目白押し状態となっています。研究所では1月6日にSARS対策会議を開き、検査体制等の再確認を行いましたが、十分な準備をして、結果として無事にすめばそれに越したことはありません。予防は最善の策と申します。今年もそれに役立つ情報の提供に努力しようと思っていますので、どうかよろしくお願いします。
 
* 今月の話題
 
1)鳥インフルエンザ -家禽ペスト-
 本年1月12日に山口県の養鶏場で、鶏が鳥インフルエンザ(A型)に感染して大量死していることが明らかになりました。我が国では1925年以来、79年ぶりの発生です。韓国では昨年12月に感染被害が拡大し、いずれ日本にも影響が及ぶのではないかと心配していた矢先の出来事でした。
 A型のインフルエンザウイルスはヒト以外にもブタ、ウマ、クジラなど多くの動物が感染しますが、元来の自然宿主はカモです。A型のヘマグルチニン蛋白(HA)には、H1からH15まで15種類の血清型があり、カモはそれらすべてに感染します。カモでは病原性のないインフルエンザウイルスですが、カモに接触した家禽で強い病原性を発揮することがあります。ニワトリやシチメンチョウが大量死しますと社会問題にも発展し、これを家禽ペストと呼んでいます。世界的にみますと、時々家禽ペストが発生しています。その中で最大級のものは1983年、アメリカ・ペンシルバニア州の養鶏場で発生し、1,700万羽が処理され4億ドルの被害が出ました。
 家禽ペストを起こすウイルスはH5かH7で、例外を除いてヒトには感染しません。ところが1997年の香港で、鶏のH5ウイルスに18名が感染して入院し、6名が死亡するという事件が発生しました。鳥インフルエンザがヒトの呼吸器に感染したという初めての事例です。昨年はオランダでH7に感染した1名が死亡し、今年に入ってからベトナムでH5に感染した数名が死亡しています。今一番心配されているのは、鳥インフルエンザが変異を起こし、ヒトからヒトへ感染する能力を有することです。こうなりますと、新型インフルエンザの出現ということで、SARSよりはるかに大きな被害がでることは間違いありません。この大規模災害に備え、パンデミック・プラニング*の策定を急がなければなりません。
*パンデミック(世界的大流行)・プラニング:国家、地域レベルで流行の影響を予測し、前もって対策を立てて最小限の被害で済むよう立案すること。地震の予知、対策に似ている。(感染症部 奥野)
 
2)液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)による水道水中の農薬類の検査
 
 今回水道基準が大幅に見直され、平成16年4月1日より施行される事になりました。その中で「農薬類」は「水質管理設定項目(27項目)」の1項目として設定され、101種類の農薬が対象になっています。
 これまで、水道水中の微量有機物質検査で威力を発揮していたのは、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)です。これは目的物質を熱して気化させる必要があります。しかし、熱しても気化しなかったり、不安定である物質はGC-MSでの測定が不向きなので、それらを測定するために液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)が普及し始めています。今回の水道基準改正では、水道水中の一部の農薬類検査にLC-MSが導入されています。
   LC-MSは、(1)液体クロマトグラフ(LC)でサンプルの中に含まれている種々の物質を分離し、(2)その分離した物質を質量分析計(MS)で同定と定量を行う装置です。(1)は、LCに注入した試料を分離管に導き目的物質を他の物質と分離させます。次に、(2)MSはイオン化部、質量分析部、イオン検出部から成っていて、イオン化部ではLCから出てきた物質をイオン化させます。分析部では、イオンを電場もしくは磁場の中を通過させ分離します。検出部で、イオンの質量数(大きさ)から物質を同定し、イオン強度からその量を測定します。しかし、GCと比較して、LCカラムは分離能がそれほど良くありません。さらにLC-MSでは、目的物質から物質イオンが一つしか生成されず、試料中の共存物質の影響を受け、物質の同定と定量が困難なことがあります。そこで、質量分析計の後にもう一台質量分析計を結合したLC-MS/MSで測定する方法が考案されました。この方法は、最初のMSで測定された物質イオンを、次のMSでさらに壊してイオン化します。この時のイオンは物質に固有なものですから、そのイオンのみを測定することにより、共存物質の影響を極力抑え、測定値の信頼性と検出感度を大幅に向上させることができるのです。私共は今後、このLC-MS/MSを用いて、水道水の農薬類や環境ホルモン等の信頼性の高い微量分析法を検討していく予定です。(環境水質課 宮野)
 
 
*研究の窓から
  「不特定多数利用施設での結核感染と遺伝子型別」
 
 同じ日本人でもそれぞれ身体的特徴や性格が異なるように、結核菌も遺伝子レベルでみるとそれぞれ個性があります。菌株の遺伝子レベルでの個性を見分ける方法を遺伝子型別法と呼びます。当所では、ある特殊な塩基配列が染色体上のどこにいくつあるかによって結核菌を遺伝子型別するIS6110-RFLP法を実施し、結核集団発生の感染源調査に利用しています。IS6110-RFLP法は世界中で広く実施されている遺伝子型別法で、すべての患者さんの結核菌を調べ、感染ルートを追跡している国や地方もあります。
 IS6110-RFLP法を用いると、結核患者さんが集団発生したときに、それが一人の感染源からの集団感染か、あるいはたまたま患者さんが同時多発したのかを調べることができます。また、結核患者さんが発見されたときに同じ遺伝子型の結核菌が周囲から発生していないか調査することにより、隠れた集団感染を発見することができます。このような遺伝子型別法の利用によって、従来は発見されにくかった飲食店・サウナ施設など不特定多数の人が利用する施設での結核集団感染を見つけられています。換気が不十分で密閉された場所は結核感染の危険性が高く、実際に飲食店、パチンコ店・雀荘などの遊戯施設、飛行機・バスなど交通機関内での集団発生が起こっています。アルコール多量摂取は結核発症リスクを高めるので、アルコール飲料を提供する飲食店での集団感染が国内外で多数報告されています。他にも宗教団体施設、趣味のクラブ、など様々の場所・集団での集団感染が発見されています。
 結核を発症しても痰の中に菌が出ないうちは人に感染させることはありませんが、最近は結核と診断されたときには症状が進んで菌を排出している患者さんの割合が多く、感染の機会が増えています。結核感染の危険性はどこにでもある、といえる状況です。しかし、遺伝子型別により隠れた集団感染が起こっていないかモニターし、的確な接触者検診を行えば、感染者の予防内服による発症予防や発症者の早期発見により、感染拡大を防ぐことができます。(細菌課 田丸)
 
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