大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第54号− 2008年2月29日発行


中国製輸入冷凍餃子が原因と思われる有機リン系農薬中毒

 【事件のあらまし】

 昨年12月及び今年1月に千葉県と兵庫県において、中国製輸入冷凍餃子を食べた家族が有機リン系農薬(メタミドホス)による中毒症状を呈し、一時重体に陥る極めて重大な健康危機事例が発生しました。更に回収した別の当該冷凍餃子から同じく有機リン系農薬のジクロルボスが検出されました。
 有機リン系農薬は、その優れた殺虫効果により、農薬として多用されています。適正な使用下においては、人体に有害な量の農薬が食品中に残留することはありません。しかし、ヒトへの毒性の懸念があることから、メタミドホスなどは日本をはじめ多くの国々で使用が禁止されています。今回の事件は、想定される残留量を遙かに超えるメタミドホス及びジクロルボスが冷凍餃子に付着していたために発生したと考えられます。


 【当研究所の対応】

 大阪府においても、回収対象の製品を食べて健康不安を訴える方々から多数の相談が寄せられました。なかには、実際に嘔吐や下痢などの症状を伴う方もおられました。このため、健康不安を訴える府民の方々に対しては、保健所などで相談窓口を設置し、対応にあたりました。
 大阪府立公衆衛生研究所においては、事件の一報から、保健所に持ち込まれた製品について、食品及び包装材中のメタミドホス及びジクロルボスの緊急検査を実施しました。その結果、全ての検査事例についてメタミドホス及びジクロルボスは検出されず、当該農薬によって健康被害にあわれたと考えられる方は確認されませんでした。


 【今後の課題】

 農産物中に残留する農薬については、食品衛生法に残留基準(基準値)が明記されており、基準値を超える農薬が残留した農産物が流通しないよう、検疫所及び各都道府県の衛生研究所において検査が実施されています。しかし、餃子などの加工食品自体には、基準値が設定されておらず、また農薬が検出されても、複数の食材から加工されるため、どの食材に残留していたか分かりません。このため、加工食品中の残留農薬は殆ど検査されていないのが実状です。
 しかしながら、事件以降、冷凍餃子以外の加工食品からも有機リン系農薬の検出が相次いで報告されており、加工食品の残留農薬に対する不安が高まっています。加工食品は、脂肪など農薬の分析を妨害する成分が多く含まれるため、従来の残留農薬の分析法では対応が困難な事例が多いと予測されますが、今後、国及び他の都道府県と連携し、加工食品中の残留農薬の検査方法の確立に努めたいと考えています。
 国の動向については以下を参照してください。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/china-gyoza/index.html
 また、近畿の主要自治体では、化学物質または病原性微生物によって発生した健康危機事例を想定した危機管理訓練を実施しています。今回の事件において、その訓練の成果を多くみることができました。今回の事件で得た教訓や反省点を活かし、このような、あってはならない健康危機事例に迅速かつ的確に対応できるよう訓練を継続していきたいと考えています。

(食品化学課農産物安全室)


 メタミドホス及びジクロルボスなどの有機リン系農薬は、コリンエステラーゼを阻害することによって殺虫作用を発揮します。コリンエステラーゼは、ヒトなど動物にも存在し、神経伝達に不可欠な酵素です。この酵素が薬物等によって阻害されると正常な神経伝達作用が損なわれます。重篤な場合、嘔吐、下痢、脱力、意識消失、発汗、流涎(よだれが過剰に出る)、流涙(涙が止まらない)、縮瞳(瞳孔が小さくなる。このため、視野が暗く感じられることもある)、痙攣、呼吸不全などの中毒症状を呈して死亡することがあります。サリンは、有機リン系農薬と類似する化学構造をもち、この酵素を極めて強く阻害するため、過去に化学兵器やテロに使用された不幸な事例があります。メタミドホス及びジクロルボスを含む有機リン系農薬は、ヒトなど動物への毒性を弱めて合成されています。しかし、安全な量を超える当該農薬が体内に取り込まれることによって、上記のような中毒症状を示すようになります。



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