大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第55号− 2008年3月31日発行


カンピロバクター属菌の迅速同定法の開発

 カンピロバクター(Campylobacter)属菌は家畜,家禽,伴侶動物および野生動物の消化管や生殖器などに広く分布しており,これらに由来すると考えられる菌が河川や湖水さらには下水などからも分離されています。人へは菌に汚染された食品や飲料水を介して感染するほか,保菌動物との接触により感染すると考えられています。

 カンピロバクター属菌は17菌種に分類されており,そのうちカンピロバクター・ジェジュニおよびカンピロバクター・コリ(以下 カンピロバクター・ジェジュニ/コリ)が下痢起因菌として最も重要視されています。さらに,その他のカンピロバクター属菌も下痢症や敗血症の患者から分離されています。

 カンピロバクター・ジェジュニ/コリによる食中毒は汚染された食品や飲料水を摂取してから2〜3日後に,水様性あるいは粘血性の下痢,腹痛,発熱,頭痛などの症状が認められます。わが国ではカンピロバクター・ジェジュニ/コリによる食中毒がノロウイルスに次いで発生件数が多く、注意が必要です。カンピロバクター・ジェジュニ/コリの感染源として最も重要視されているのがニワトリで,鶏肉の汚染率は他の食肉に比べ非常に高く,日本国内の市販鶏肉の実態調査では約75%が汚染されていたとの報告もあります。わが国ではニワトリを含むさまざまな動物種の肉や内臓を不完全加熱あるいは生食する食習慣を持つため,感染するリスクは他の先進諸国と比較して高いと考えられます。また,海外では井戸水や簡易水道などの消毒の不備による水系感染や未殺菌乳による感染例が報告されています。

 カンピロバクター属菌の菌種の正確な同定は,食中毒の原因追求を目的に実施する疫学調査や治療時の適切な抗生剤の選択等のために重要です。しかし,カンピロバクター属菌の同定のために実施する生化学的性状試験は,日数を要する上に,結果があいまいで判定が困難な場合が多くあります。これらの問題を解決するために,当所ではMultiplex Polymerase Chain Reaction(多重ポリメラーゼ連鎖反応)法を用いたカンピロバクター属菌の迅速同定法を開発しました。17菌種のカンピロバクター属菌のうち,本法は6菌種(カンピロバクター・ジェジュニ/コリ/フィータス/ラリ/アプサリエンシス/ハイオインテスティナリス 亜種ハイオインテスティナリス)を一括して同定することが出来ます。家畜,家禽,伴侶動物および野生動物などの腸管に分布しているこれらの菌種を原因とする集団発生事例が日本国内や海外で報告されているため,迅速同定法を確立しておくことは重要です。

 カンピロバクター属菌では実験動物を用いた感染モデルが確立されていないことが病原性の評価を遅らせる大きな原因となっています。したがって,自然界に広く分布しているカンピロバクター属菌のすべてが病原性を示すのか,あるいは一部の菌種や菌株のみが病原性を示すのかは現時点では不明であり、それらを明らかにすることが今後の課題となるでしょう。

(細菌課 山崎 渉)


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