大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第60号− 2008年8月29日発行


加熱調理は細菌性食中毒の予防の切り札となるか?

 今夏は全国的に細菌性食中毒(以下、食中毒)が多く発生しています。これから涼しくなってきますが、9月、10月は例年、まだ食中毒の発生が多い時期ですので、引き続き注意が必要です。今回は食中毒発生予防法の1つである加熱調理について考えてみたいと思います。

 食中毒予防の三原則は、菌を「付けない」・「増やさない」・「やっつける」です。しかし、一口に食中毒と言っても、原因となる食中毒菌の種類により食中毒の発生のしくみが異なります。そのため、食中毒予防法も菌種ごとに考える必要があります。

 病原大腸菌O157、カンピロバクター、サルモネラのように、少ない菌量で食中毒を起こす菌では、「増やさない」は当然ですが、「付けない」「やっつける」が予防に重要です。カンピロバクターを例にしますと、本菌はほとんどの鶏肉に「付いている」ため、鶏肉をしっかり加熱調理(中心部が75℃,1分間以上の加熱)して菌を「やっつける」、鶏肉からサラダなど生で食べる他の食品に菌を「付けない」ことが食中毒予防に大切です。O157は牛肉に、サルモネラは食肉や鶏卵に「付いている」ことが多いので、これらの食材も鶏肉と同じ取扱いをすることが食中毒予防に大切です。

   一方、黄色ブドウ球菌やセレウス菌では、食品内で菌が増殖して作った毒素を食べてしまうことにより食中毒が起きるので、「毒素を作らせない」、つまり菌を「増やさない」ことが食中毒予防に大切です。黄色ブドウ球菌はヒトの手指などに、土壌菌のセレウス菌は穀物や野菜に付着しているため、このような菌を食品に「付けない」ことを実践するのは簡単ではないという現状があります。少量の菌が「付いて」もすぐに食べるのであれば健康なヒトには全く問題はありません。しかし、おにぎりなど室温で長時間保存する、すなわち、菌が増える状況に置かれる食品では、「素手でおにぎりを作らない」など菌を「付けない」努力も食中毒の危険性をなくすために必要です。一旦毒素が作られると、増殖した菌を「やっつけて」も食中毒を防ぐことはできないからです。

 セレウス菌が作る毒素は嘔吐毒あるいはセレウリドと呼ばれ、極めて耐熱性の高い物質です。121℃,20分の高圧蒸気滅菌でも壊れないため、通常の加熱調理で壊れることはまずありません。黄色ブドウ球菌が作る毒素はエンテロトキシンと呼ばれ、嘔吐毒よりも耐熱性が低いものの100℃,30分の加熱でも壊れません。このため、食品中でいずれかの毒素が作られると、加熱調理しても大丈夫とは言えないのです。

 さらに、食中毒菌の中には通常の加熱調理で完全に死滅しない菌も存在します。それは、「芽胞」と呼ばれる、耐久性の強い細胞構造を形成するセレウス菌、ウェルシュ菌、ボツリヌス菌です。これらの菌に対しては逆に加熱調理が菌の発育を促進する場合があります。なぜなら、発育の競争相手となる他の菌が加熱調理で死んで自分だけが発育できる環境を手に入れることができるからです。芽胞形成菌だけではなく、他の食中毒菌も何らかの原因で加熱調理後の食品に「付く」と、食品の種類・保存状態によっては付着した菌が優位に増えて食中毒の原因になることがあります。大阪府内でも加熱後のウナギの蒲焼きに黄色ブドウ球菌が「付き」、「増えて」、毒素を作った結果、食中毒を引き起こした事件がありました。

 ですから、加熱調理は大半の食中毒菌には有効な殺菌手段ですが、「菌が増えても加熱して殺せば大丈夫」と過信することは禁物です。加熱調理後の食品はすぐに喫食するか、冷蔵あるいは冷凍保存、もしくは65℃以上で保温するよう心がけてください。涼しいからといって室温で長時間放置しないことが大切です。


セレウス菌の顕微鏡写真(芽胞染色)
青色:セレウス菌芽胞


(細菌課 河合高生)


▲ページの先頭へ