大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第65号− 2009年1月30日発行


モノクローナル抗体を利用した病原体や有毒物質の簡便・迅速な高感度検出法の開発

 動物に抗原(通常タンパク質)を注射する(免疫する)と、その血清中に抗原に特異的に結合する蛋白質(抗体)が産生されます。通常、一つの抗原には複数の抗原決定基(抗体が結合する場所)が存在するので、抗原で免疫した動物の血清中には、それぞれ異なった抗原決定基に結合する抗体が混ざった状態で存在します。このように均一でない抗体が多数混ざっている集合体をポリクローナル抗体といいます。これに対して、特定の抗原決定基だけと結合する均一な抗体の集合体をモノクローナル抗体といいます。このモノクローナル抗体は、抗原で免疫した動物から取り出した単一の抗体産生細胞と骨髄腫細胞を細胞融合させて作成した雑種細胞(ハイブリドーマ) を試験管内で培養することにより、その培養液中から得ることが出来ます。モノクローナル抗体を作製する方法は、1975年にジョージ・ケーラーとセーサル・ミルスタインにより発明され、彼らは、この業績により1984年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

 通常、モノクローナル抗体は、抗原特異性(抗原を識別する能力)や抗原親和性(抗原に結合する能力)が優れているので、この性質を利用することにより抗原を簡便、迅速に高感度で検出することが可能となります。このため、モノクローナル抗体を作製する方法が開発されてから30年以上を経過した今日に至るまで、多くの病原体や有毒物質について、それらを抗原と認識するモノクローナル抗体が開発され、その検出法に利用されてきました。我々の研究所においても、様々な病原体や有毒物質に対するモノクローナル抗体を作り出すことに成功し、それらを利用した簡便、迅速、高感度な検出法の開発に取り組んでいます。ここでは、その中から、近年大阪湾においてその発生が報告されている動物性自然毒である麻痺性貝毒について、そのモノクローナル抗体の開発と検出法への利用についてご紹介します。

 麻痺性貝毒は、ある種のプランクトン(渦鞭毛藻類)が産生する強力な神経毒で、この有毒プランクトンを食用二枚貝が餌として捕食することにより、その体内に蓄積されます。この毒化した二枚貝を人が摂食すると重篤な食中毒を引き起こすため、食用二枚貝におけるこの貝毒の蓄積を常にモニタリングすることが重要ですが、そのためには簡便、迅速、高感度な検出法が必要となります。従来、麻痺性貝毒の検出は、動物試験法や機器分析法により行われていましたが、前者は、精度や分析感度が不十分であり、後者は精度や分析感度は優れているが、分析に際して検体の煩雑な前処理を必要とするため、簡便性、迅速性に欠けています。そこで、私達は、これらの問題点を解決するために、麻痺性貝毒に対するモノクローナル抗体を作出し、それを利用して、簡便、迅速、高感度な検出法を開発することに取り組みました。麻痺性貝毒には、多数(19種類以上)の誘導体が存在していることが知られていますが、作出に成功したモノクローナル抗体(GT13A)は、日本における麻痺性貝毒の主成分であるゴニオトキシン群を初めとして、多数の麻痺性貝毒誘導体に幅広く反応することができました。このGT13A抗体を用いて開発された検査法(酵素免疫測定法)では、二枚貝抽出液中の麻痺性貝毒の有無を約30分で判定することが可能であり、その検出感度は、公定法である動物試験法より数十倍以上優れていました。従来法によるモニタリングでは、時間、労力及び費用を必要としましたが、本法の開発によって、多数の検体を短時間に簡便に低コストで分析することが期待できます。

 今回ご紹介した麻痺性貝毒の他にも、現在、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、サルモネラ等の食中毒起因菌について、それらに対するモノクローナル抗体の作出に取り組んでおり、その成果をこれらの食中毒起因菌の新たな検出法の開発につなげたいと考えています。

(細菌課 川津 健太郎)


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