大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第67号− 2009年3月31日発行


安全な抗がん剤調製を目的とした対策の事例

 悪性腫瘍の治療に用いられている抗がん剤は患者さんにとってなくてはならないものです。抗がん剤の多くは、細胞のDNAを傷害する、あるいは細胞分裂を阻害することによりがん細胞に対して効力を発揮しますが、がん細胞だけでなく正常細胞にも影響を及ぼします。抗がん剤は通常、輸液として患者さんに投与されますが、抗がん剤と輸液を調製する際、医療従事者は抗がん剤を職業的に被曝する危険性があります。以前、私達は抗がん剤を取り扱う看護師が抗がん剤に被曝し、生体影響を受けている可能性があることを報告しました(かわら版@iph第20号参照)。海外では安全な抗がん剤調製のための種々の対策が実施されています。私達はその対策の中の一つ、閉鎖系注入器具、通称クローズドシステムに着目しました。クローズドシステムは、抗がん剤のバイアルとそれを抜き取るシリンジの間に特別な部品を装着することにより、抗がん剤が外部へ漏出すること(スプラッシュあるいはスピルといわれています)を防ぐ器具です。わが国では、抗がん剤曝露の危険性への認識不足や医療保険不適応、あるいは事例報告がない等の理由からほとんど普及していません。今回、私達はより安全な職場環境を構築することを目的として府内の病院内薬局と共同でクローズドシステムの有用性を検討しました。

 私達はまず、普段の調製方法で抗がん剤調製室がどの程度抗がん剤に汚染されるか把握するため、一週間おきに5回職場環境調査を行いました。次に抗がん剤調製担当者がクローズドシステムの使用に関するトレーニングを受けた後、クローズドシステムを使用した方法では現場がどの程度抗がん剤に汚染されるか把握するため、再度、一週間おきに5回職場環境調査を行いました。そして両者の抗がん剤による汚染状態を比較しました。

 その結果、クローズドシステムを使用することにより抗がん剤調製室内に設置された安全キャビネットや作業台の上や床の表面に付着した抗がん剤の量が約80%減少することがわかりました。また、抗がん剤を調製した後に薬剤師が着用していた手袋に付着する抗がん剤の量も約85%減少しました。そして抗がん剤を調製する薬剤師に取り込まれた抗がん剤の量についても、クローズドシステムを使用することにより有意に減少しました。このようにクローズドシステムは抗がん剤の職場環境の汚染および職業的曝露の予防に有効な器具であることが明らかになりました。私達は今後とも医療現場の方と共同で、より安全に抗がん剤を取り扱えるような職場環境を構築するために、知見を集めていきたいと考えています。


(生活衛生課 吉田 仁)


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