大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第70号− 2009年6月30日発行


健康危機対応のための食品中有害重金属の迅速分析法

 ここ数年、飲食物への農薬等の混入による重大な健康被害(健康危機)事例が多く発生し、健康危機への緊急対応の強化が食品衛生行政上の急務となっています。健康危機発生時には、適切な初動措置による被害者の早期治療および健康被害の拡大防止が重要であり、関連機関(警察、病院、保健所、地方衛生研究所等)の連携による迅速な原因究明が望まれています。

 当所の理化学部門においても現在、地域ブロック毎の定期的な健康危機模擬訓練と併せて、緊急情報網の整備や分析対象項目の拡充に取り組んでいます。


 [1]分析法の構築

 健康危機発生時には、広範囲な化学物質を対象としたスクリーニング分析が必要となります。近年の食品関連の健康危機事例においても、その原因物質はメタミドホスやメラミン、ヒ素化合物等、多岐に渡っています。

 食品中の有機化合物については、汎用的な質量分析計付きのガスクロマトグラフまたは液体クロマトグラフ(GC/MS、LC/MS)を使用した簡便な多成分一斉分析法があり、これらの検索性に優れたスクリーニング手法を用いることで、健康危機への迅速な対応が可能です。

 一方、食品中の有害重金属の迅速分析法についてはいくつか方法がありますが、マイクロ波分解装置等、地方衛生研究所における普及率が比較的低い装置を試料の前処理または測定に使用する例が多いのが実情です。

 そこで、当所では食品中有害重金属の迅速分析法の開発を試みました。本法では、簡便な硫酸分解・硝酸希釈法を前処理に採用し、測定には普及率が比較的高い誘導結合プラズマ発光分光分析計(ICP-AES)を用いて測定します。この分析法は、試料の秤量から分析値を得るまでの時間は約2時間であり、既存の分析法に比べ操作時間が大幅に短縮され、中毒発生時の迅速簡便な緊急分析法として利用可能であると考えています。

 [2]模擬訓練の実施

 昨年12月、近畿圏の地方衛生研究所が合同して健康危機事象の模擬訓練を行いました。化学物質と微生物による2つの健康被害が発生したと想定して、被害者の嘔吐物と尿などを各地方衛生研究所に送り、その原因物質が何か、どれだけの量かを測定するものです。京都府保健環境研究所が担当して秘密裏にシナリオと模擬検体を用意しました。

 当日、シナリオの患者の症状から原因物質として金属化合物の可能性が疑われました。そこで本法を活用して一斉分析を行い、ホウ酸が原因であることを突き止めました。シナリオは「月見団子を作る際に上新粉と間違ってホウ酸団子粉を使った事故」でした。

 今後もこのような、あってはならない健康危機事例に迅速かつ的確に対応できるように、訓練を継続していきたいと考えています。



(食品化学課 野村 千枝)


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