大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第75号− 2009年11月30日発行


家庭用殺虫・防虫剤による住宅室内空気の汚染

 近年、住宅等の建築物室内の空気汚染が発症原因とされる「シックハウス症候群」が社会的な問題となっています。厚生労働省では、室内において生活衛生上問題となる十数種の化学物質を選定し、各物質の濃度指針値 (一生涯その値以下の濃度に曝露されたとしても、有害な健康影響がないであろうと判断される濃度) の策定を進めてきました。さらに、国土交通省では、2002年に建築基準法を改正し、クロルピリホス (有機リン系のシロアリ防除剤) の建材への添加を禁止し、内装材へのホルムアルデヒドの使用を制限しました。これらの対策により、建材が原因となる「シックハウス症候群」の患者は減少し、一定の成果が得られたと考えられます。しかし、室内において建材以外の持ち込み品 (家具、防虫・殺虫剤、ワックスなど) も化学物質の大きな発生源となるが未規制であること、室内空気中には非常に多種類の化学物質が存在するが規制の対象がごく一部の化学物質に限られていること、などからその対策は十分とは言えません。最近では、ベッドから放散される化学物質や建材の防腐のために使用された薬剤 (クレオソート油) が「シックハウス症候群」を引き起こした事例が話題となりました。

 我々は、近年住宅内での使用量が増加しているピレスロイド剤のヒトへの健康影響に着目しています。ピレスロイド剤は、長期間連続的に使用される電気蚊取り剤やタンスやクローゼット内で使用される衣料用防虫剤のほか、噴霧式や蒸散式の殺虫剤などに広く用いられています。ピレスロイド剤の中には内分泌かく乱作用 (環境ホルモン様作用) を有する物質や神経毒性作用を示す物質も含まれており、ヒトの健康への影響が懸念されます。しかし、住宅内で使用されるピレスロイド剤の空気汚染レベルや住人の曝露レベルについてはほとんど把握されていません。おそらく、使用が概ね国内のみに限定されているピレスロイド剤が多いこと、室内空気中濃度の測定が困難であること、などがその原因であると思われます。そこで、まず、我々は市販の家庭用殺虫・防虫剤に使用されているピレスロイド剤の種類を調べ、それらの空気中濃度の測定方法を検討しました。住宅内空気中からの検出頻度が高いと推定される18種のピレスロイド剤を選定し、ポンプを使用して流速毎分3Lで遮光した捕集材にこれらを24時間吸引捕集し、溶剤による抽出、濃縮後、ガスクロマトグラフ/質量分析計により測定することとしました。各ピレスロイド剤は数ng/m3 の濃度まで精度よく測定できることが確認できました。つぎに、市販の電気蚊取り剤7種 (@〜F) および衣料用防虫剤2種 (G、H) を、それぞれ木造住宅の洋室 (5畳) およびウォークインクローゼット (2畳) において、窓、扉を閉鎖して、各製品別々に使用し、使用中の空気中ピレスロイド剤の濃度をこの測定方法により調べてみました。各製品中の主成分と測定結果 ( g/m3 ) は以下の通りでした。@ アレスリン 135、A プラレトリン 46、B フラメトリン 32、C プラレトリン 26、D トランスフルトリン 11、E フラメトリン 4.6、F メトフルトリン 0.20 (以上電気蚊取り剤)、G エンペントリン 2.3、H プロフルトリン 1.0 (以上衣料用防虫剤)。ピレスロイド剤の空気中濃度レベルは、製品や成分の種類により大きく異なることが示唆されました。

 今後、府内の一般住宅を対象として、これらのピレスロイド剤による室内空気の汚染レベルを調査し、さらに、住人の体内への吸収量を調べたいと考えています。

(生活環境課 吉田 俊明)


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