大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第79号− 2010年3月31日発行


臭素系難燃剤ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)の食事からの摂取量

 難燃剤は、プラスチックや繊維など可燃性の素材に対してそれらを燃えにくくするために用いられる薬剤です。具体的には住宅やオフィスなどの天井や壁、インテリア、家電製品、自動車、電線などに使われています。公共施設など人が多く集まる場所ではカーテンなど燃えやすいものに対して建築基準法や消防法などで難燃化が義務付けられているものがあります。難燃剤のうち臭素原子を有する化合物が臭素系難燃剤と呼ばれます。そのうちでポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)がこれまで多く使われてきました。(2007年10月31日 かわら版@iph第50号参照)しかし、PBDEは難分解性で生体内に蓄積することや、甲状腺に対する内分泌かく乱作用を有することがわかってきました。そのため現在ではEUを中心とし、PBDEの使用が規制されてきました。そこで、PBDEの代替品としてヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)の需要が増加してきています。

 HBCDは1980年代のなかごろから使用されており、使用量はこの20年間で4倍以上となっています。ヨーロッパやアメリカ、日本などで生産され、用途は主に断熱材としての発泡スチロール、ソファやカーテンなど繊維製品に添加されています。しかし最近では難分解性で生体内蓄積性があることがわかったため、製造・輸入数量の届出が義務化されています。また、HBCDは甲状腺に対して内分泌かく乱作用を示すこと、自然発生行動、学習機能、記憶機能に悪影響を与えることがEUの行なった調査で明らかになっておりその曝露実態の解明が望まれています。

 このような背景から、2006年に食品由来のHBCDの一日摂取量の調査を行いました。調査には「マーケットバスケット方式のトータルダイエットスタディ」と呼ばれる手法を用いました。まず、府内の一般的なスーパーマーケットから100種類以上の食品材料を購入、調理した後、摂取量の比率に基づき、13ある食品群ごとに混合試料を調製します。これに飲料水試料を加えた計14群の試料を分析して、その結果に基づきHBCDの摂取量を算出するというものです。

 調査の結果、各食品群のうち魚介類の群でHBCDが検出されました。魚介類の群から検出されることはPCBやPBDE等他の環境汚染物質にもみられる傾向です。魚介類の群から試料1グラムあたり3.7ナノグラムのHBCDが検出されました。この値と各食品群の摂取量を基に府内の平均的な消費者のHBCDの一日摂取量を算出した結果、304ナノグラムで海外の報告値とほぼ同レベルでした(注)。また、平均的消費者の体重を50キログラムと仮定すると、これらの摂取量はそれぞれ体重1キログラムあたり約6ナノグラムとなり、無毒であるとされる量(無毒性量)の参照値(体重1キログラムあたり10ミリグラム)の約1,600,000分の1以下であることから、食事を介したHBCDの摂取による健康へのリスクは十分に小さいと判断されました。以上、食事を介したHBCDの摂取量調査についてご紹介しました。府民の皆さんの暮らしの安全・安心を支えるために引き続きこれらの調査に取り組んでいく予定です。

(食品化学課 柿本 健作)


注:

 例えばイギリスで行なわれたトータルダイエットスタディでは1日あたり295ナノグラムのHBCDを摂取していると報告されています。(UK Food Standards Agency, 2006)
1ナノグラムは10億分の1グラム