大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第80号− 2010年4月30日発行


無機系抗菌剤の安全性評価(1)−市販抗菌加工製品に使用されている無機系抗菌剤の分析−

 日本人の清潔志向の高まりにより、様々な抗菌加工製品が増えてきています。抗菌加工製品に使用されている抗菌剤は、無機系、有機系、天然有機系に分類されます。銅、亜鉛、銀等の無機系抗菌剤は、比較的安全な加工剤として生活用品など様々な製品に使用されてきています。しかし、銅や亜鉛による金属アレルギーの症例が報告されており、金属アレルギー患者や乳幼児は高濃度の金属への接触を避けるべきです。ヨーロッパでは、繊維製品の安全性自主基準(エコテックス規格)で、人工汗や唾液による重金属の溶出量を規定しています。現在、日本ではこのような基準はありません。そこで、日本における「抗菌製品の暴露評価ガイドライン策定」を目的とする研究の一環として、無機系抗菌剤の安全性評価に関する研究を実施しました。その内容を3回に分けて紹介します。最初は、市販抗菌加工製品中の無機系抗菌剤の分析法について紹介します。

 市販製品には金属加工部位と加工濃度を明示していないものが大部分です。そこで、抗菌加工表示をしている下着、靴下などの繊維製品を中心に市販40製品の96部位を各々分析しました。まず、蛍光X線法により非破壊の定性分析を行い、高濃度の金属が検出された部位を誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)で定量分析して、蛍光X線法が、スクリーニング法として有効かを検討しました。その結果、以下の事が分かりました。@銅、亜鉛に関しては、蛍光X線法はスクリーニング法として有用でした。A蛍光X線法では、加工濃度レベルの銀は検出できず、スクリーニング法としては適していませんでした。しかし、銀使用と表示されていた5製品からは、ICP−AES法で、2.4〜55.5 μg/gの銀が検出されました。また、銀使用と表示されていない製品からは、銀は検出されませんでした。つまり、銀加工は製品の付加価値を高めるため、必ず加工表示をしているものと考えられます。B無機系加工剤(銅、亜鉛、銀)で加工していた製品は40製品中21製品ありました。しかし、無機系抗菌剤で加工と表示していた製品は11製品しかありませんでした。C銅が検出された製品は、6製品ありました。このうち4製品は高濃度のアルミニウムが検出されたため、抗菌ゼオライトを使用していると考えられます。また、ストッキングのつま先などは、水虫予防のために、高濃度の銅加工をしていました。D亜鉛を抗菌剤として使用している製品は、18製品でしたが、このうち13製品は抗菌ゼオライトを使用していると考えられました。E銀が検出された5製品からは、より高濃度の銅または亜鉛を検出しました。銅や亜鉛を併用して抗菌効果を発揮しているものと考えられます。F乳幼児製品13製品のうち4製品が無機系抗菌剤を使用していました。2製品は、キトサン使用と表示しているにも拘わらず亜鉛が検出されました。亜鉛との併用もしくは亜鉛のみで抗菌効果を発揮させる製品だと思われます。

 以上の様に、部位によって金属濃度が大幅に異なる製品がありました。抗菌効果を追求するあまり、過剰加工が行われる可能性があります。安全性を評価するには、溶出金属量により規制値を設定する必要があります。次回は、高濃度部位の金属が、汗や唾液で、どの程度溶出してくるかを検討した結果を紹介します。

(生活環境課 中島 晴信)


参考文献

1)中島晴信:「抗菌製品における安全性評価及び製品情報の伝達に関する研究」、厚生労働科学研究費補助金研究報告書(主任研究者:鹿庭正昭)
2)中島晴信ら:無機系抗菌剤の安全性評価(1)−市販抗菌加工製品に使用されている無機系抗菌剤の分析−、Biomed. Res. Trace Elements, 17(4), 427-430, 2006.
3)Nakashima, H. Ooshima, T. : Analysis of inorganic antimicrobial agents in antimicrobial products:Evaluation of a screening method by X-ray fluorescence spectrometry and the measurement of metals by inductively coupled plasma atomic emission spectroscopy, Journal of Health Science, 53(4),423-429, 2007.


蛍光X線分析:X線を元素に照射することにより元素から出てくる蛍光X線を測定する方法です。非破壊での短時間測定も可能です。

誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES):金属、セラミックスなどさまざまな試料について元素分析ができます。液体試料を主に対象とする分析法であるため、固体試料は、酸分解法などによる溶液化(前処理)が必要です。