大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第81号− 2010年5月31日発行


無機系抗菌剤の安全性評価(2)−人工汗・唾液による無機系抗菌剤及び加工布からの金属溶出−

 前号でも触れておりますが、欧州では繊維製品の安全性自主基準(エコテックス規格)で人工汗や唾液での重金属の溶出量の基準値を規定していますが、日本ではその様な自主基準はありません。また、エコテックス規格では、溶出条件など具体的な方法は非公開です。そこで、我々は、日本における基準値を設定することを目的としてこの研究を行ってきました。

 無機系抗菌剤としては、銀、銅、亜鉛などの金属ゼオライトが汎用されています。そこで、まず、銀、銅、亜鉛、クロムの金属ゼオライトを作製しました。さらに、作製した金属ゼオライト及びジルコニウム系銀抗菌剤(Novaron Ag 300)を付着させた標準加工布を作製して、人工汗や唾液で溶出してくる金属量を高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)で測定しました。

 その結果、各金属の溶出は、抗菌剤、標準加工布、共に同じ溶出傾向を示しました。水のみでは金属は殆ど溶出せず、銅は人工汗・唾液で殆ど溶出しました。亜鉛は人工唾液では殆ど溶出しますが、酸性汗での溶出はアルカリ汗・唾液と比べるとやや少ない傾向を示しました。銀の溶出量は少なく、クロムは溶出しませんでした。これは、「洗濯時(水)には金属は溶出しないが、着衣している発汗時に金属が溶出し抗菌効果を発揮する」という抗菌剤の機能によるものと考えられます。下の表に1%と2%加工布からの金属溶出量を示しています。

 また、前号で紹介した市販抗菌製品の中で、高濃度に金属が検出された20部位に対して同様の溶出試験を行い、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)による金属含有量と比較しました。その結果、いずれの金属も標準加工布と同じ傾向を示しました。今回は、試料1gに対し15mlの溶液で溶出させました。その条件で、抗菌加工靴下から、エコテックス基準値である25ppmに近い20ppmの銅が人工唾液で溶出しました。

 さらに、抗菌加工布の抗菌性を確認するために、黄色ブドウ球菌と肺炎かん菌を用い、統一試験法(JIS L 1902:2002)で標準加工布の抗菌力評価を行いました。銅及び銀(銀ゼオライト、AG300)加工布は、両方の菌に対して共に高い抗菌力を示しました。黄色ブドウ球菌に対しては亜鉛加工布も抗菌効果を示しました。銀加工布からの銀イオンの溶出量は少ないのですが、加工布の抗菌効果が最も高い結果でした。これは、銀イオンの抗菌力が強いからと考えられます。銅加工布の抗菌効果が高いのは、銅イオンの抗菌力が高いと共に、銅イオンの溶出量も多いからと考えられます。亜鉛加工布からの亜鉛溶出量は多いのですが、抗菌効果が低いのは、銀や銅と比較して亜鉛は抗菌力が弱いからと考えられます。クロム加工布は、抗菌効果が認められませんでした。クロムは殆ど溶出もしないため、抗菌効果がないものと考えられました。

 次回(3)では、人工汗や唾液で溶出してきた金属イオンが、皮膚常在菌のバランスに及ぼす影響について行った研究の結果を紹介します。

(生活環境課 中島 晴信)




参考文献

1)中島晴信:「抗菌製品における安全性評価及び製品情報の伝達に関する研究」、厚生労働科学研究費補助金研究報告書(主任研究者:鹿庭正昭) http://mhlw-grants.niph.go.jp/
2)中島晴信ら:無機系抗菌剤の安全性評価(2)−人工汗・唾液による無機系抗菌剤及び加工布からの金属溶出−、Biomed. Res. Trace Elements, 17(4), 431-434, 2006. http://www.jstage.jst.go.jp/browse/brte/17/4/_contents/-char/ja/
3)Nakashima, H. Miyano, N. and Takatuka, T.: Elution of metals with artificial sweat/saliva from inorganic antimicrobials/processed cloths and evaluation of antimicrobial activity of cloths, Journal of Health Science, 53(4),390-399, 2008. http://www.jstage.jst.go.jp/article/jhs/54/4/390/_pdf/-char/ja/


ゼオライト:アルミニウムとケイ素及びナトリウムからなる結晶性鉱物。金属(抗菌)ゼオライトとは、合成ゼオライトに抗菌性を有する銀、銅、亜鉛など金属イオンを付加した化合物。

高周波誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS):多元素を同時に、しかも超高感度で分析できる装置。溶液1リットル中に1億分の1グラム程度の極低濃度でも精度よく定量することが可能です。