大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第82号− 2010年6月30日発行


無機系抗菌剤の安全性評価(3)−無機系抗菌剤が皮膚常在菌に及ぼす影響−

 金属の抗菌加工剤の過剰使用により、皮膚常在菌のバランスが崩れ真菌症などの障害を引き起こす可能性が指摘されています。つまり、ヒトにとって必要な皮膚常在菌が死滅する薬剤濃度でも、白癬菌などの真菌は生存する可能性があります。前号のメルマガで、人工汗・唾液による無機系抗菌剤及び加工布からの金属溶出と抗菌効果について紹介いたしました。3回目のこの号では、抗菌剤・加工布から人工汗・唾液によって溶出される金属量と皮膚常在菌への影響の関連を観察した研究について紹介いたします。

 試験菌株として7種の菌を選択しました。細菌は、JIS抗菌性評価試験に用いられる黄色ブドウ球菌(グラム陽性菌)と大腸菌(グラム陰性菌)を、好気性皮膚常在菌として表皮ブドウ球菌を、また、嫌気性皮膚常在菌としてアクネ菌の4種の菌を用いました。真菌としては、生体に常在し皮膚カンジダ症の原因となるカンジダ菌、皮膚糸状菌症の原因となる白癬菌、さらに自然界に広く分布し、ヒトにアレルギー・感染症を引き起こすと言われている黒カビの3種の菌を用いました。

 人工汗・唾液中の金属濃度と、それらの菌の最小発育阻止濃度(Minimum Inhibitory Concentration、MIC)及び最小殺菌濃度(Minimum Bactericiadl Concentration 、MBC)の関連を調べました。

 MICは、最初から個々の菌に応じた培養条件で行うため、各種の菌が同条件で共存する皮膚での接触条件とは異なりますが、まず各菌に対する各金属イオンの抗菌性を比較する必要があるために実施しました。その結果、銀(Ag)は細菌にも真菌にも高い阻止効果がありました。真菌の中でカンジダと白癬菌は細菌類とほぼ同程度のMICでしたが、黒カビはそれらの菌よりMIC値が高くなりました。つまり、黒カビは高濃度のAgイオン溶液中でも生育することが分かりました。

 MBCは、水溶液、人工唾液、酸性人工汗、アルカリ性人工汗に各金属イオンを段階希釈した溶液中で、一定時間(2時間又は24時間)細菌類及び真菌類を金属イオンと接触作用させた後、各菌に適した培養条件で菌の生存を確認してMBC値を決めます。従って、菌が共存する皮膚での接触条件に近い条件です。特に24時間接触させた場合に、その差ははっきりとでます。表に酸性人工汗液、アルカリ性人工汗液及び人工唾液中で金属イオンと24時間接触させた各菌のMBC値を示します。菌種によって違いはあるものの、真菌類の方が高濃度の金属溶液中で生存していました。従ってこの結果から、細菌が死滅する金属濃度でも真菌は生存し、皮膚常在菌のバランスが崩れて真菌症が発現する可能性が示唆されました。

 24時間金属イオンと接触させた結果から、溶出金属濃度の基準値を考察しました。すなわち、真菌が生存し、いずれかの細菌(黄色ブドウ球菌、大腸菌、表皮ブドウ球菌、アクネ菌)が死滅する濃度として、人工唾液中のAgと銅(Cu)濃度は12.5μg/ml以上、亜鉛(Zn)は400μg/ml以上、クロム(Cr)は50μg/ml以上となります。同様に酸性人工汗液中のAg濃度が100μg/ml以上、Cuが50μg/ml以上、Crが25μg/ml以上となります。アルカリ性人工汗液中では、Ag濃度が6.25μg/ml未満、Cuが400μg/ml以上、Crが400μg/ml以上となります。

 欧州のエコテックス規格では、規制基準値を設定した毒性データの根拠も非公開です。今後、日本での抗菌製品の安全性基準を設定するためには、他の毒性評価方法とも併用して、皮膚常在菌への影響評価を行っていく必要があると考えます。

(生活環境課 中島 晴信)




参考文献

1)中島晴信:「抗菌製品における安全性評価及び製品情報の伝達に関する研究」、厚生労働科学研究費補助金研究報告書(主任研究者:鹿庭正昭) http://mhlw-grants.niph.go.jp/
2)中島晴信、高塚正ら:無機系抗菌剤の安全性評価(3)−無機系抗菌剤が皮膚常在菌に及ぼす影響−、Biomed. Res. Trace Elements, 17(4), 435-438, 2006. http://www.jstage.jst.go.jp/browse/brte/17/4/_contents/-char/ja/