大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第85号− 2010年9月30日発行


バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)って?

 バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)は1980年代後半にヨーロッパで初めて報告されて以来、院内感染の原因菌として世界中で分離されています。腸球菌は本来、ヒトや動物の腸管内に常在する細菌で、その病原性は低く健康な人に病気を引き起こすことはほとんどありません。しかし、重度の基礎疾患患者や外科手術後の患者は、免疫力の低下した状態にあることが多く、しばしば腸球菌が原因となる感染症を発症します。特にVREは多剤耐性を示すことが多く、有効な治療薬が少ないため、VRE感染症では重篤な症状に至る場合もあり、世界各国で大きな脅威となっています。さらに、MRSAなど他の病原性の強い細菌にVREからバンコマイシン耐性が伝播することも示されており、VREは公衆衛生上、重要度の高い菌として認識されています。

 VRE出現の一要因として、家畜の成長促進を目的にアボパルシンという抗生物質が飼料添加剤として使用されていたことが挙げられます。アボパルシンはバンコマイシンと類似した化学構造を有し、抗生物質としての作用機序も似ているため、アボパルシンを与えられた家畜の腸管内でVREが選択的に増加し、蔓延したと考えられました。そのため、家畜へのアボパルシンの使用は1990年代後半から2000年代前半にかけ各国で禁止されました。日本では1997年に禁止されるまでアボパルシンが使用されていましたが、幸いにも現在まで国産の畜産物からのVRE分離率は非常に低く、VREの蔓延という状況には至っていません。しかし、近年、スウェーデンで行われた研究では、アボパルシンを含むすべての抗生物質が家畜に使用されていないにもかかわらず、鶏糞からのVRE分離率が年々増加していることが示されました。これは、抗生物質以外の要因が家畜飼育環境中におけるVREの出現あるいは保持に関与している可能性を示しており、家畜のVREモニタリングを行うことの重要性が再認識されました。公衆衛生研究所細菌課では大阪府内で流通する鶏肉について、平成11年度から平成19年度までVREのモニタリングを実施し、ほとんどの鶏肉がVREに汚染されていないことを報告しています(大阪府ホームページ)。さらに、鶏肉からのVRE試験法についても検討を行い、より効率性の高いVREスクリーニング法の開発を進めています。

 最後になりますが、VREは腸管出血性大腸菌O157やカンピロバクターといった食中毒起因菌と同様に75℃1分以上の加熱で死滅します。このようなヒトの健康を害する恐れのある細菌が体内に侵入するのを防ぐため、食肉は十分加熱して喫食するようにしましょう。



(細菌課 原田 哲也)