大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第85号− 2010年9月30日発行


養殖トラフグのDNAからホルマリン汚染を調べる新しい分析法の開発

 平成8年と15年に、養殖場で海水に希釈したホルマリン(*)に、トラフグを浸漬していたことが報道で明らかになりました。養殖トラフグにホルマリンの残留が問題視され、有害なホルマリンを含むフグを食べた人への影響が危惧されました。そのため風評で養殖トラフグが出荷・販売できなくなり、生産者や販売業者に経済的な損害が発生する事態になりました。ホルマリンの成分であるホルムアルデヒドは、生物に触れると細胞のタンパク質を変化させる強い毒性があります。養殖業者は、この毒性を利用してトラフグに付着した寄生虫を駆除する目的で使用していました。

 養殖魚の多くはトラフグに限らず、海を網で囲った生け簀で育成します。海中には魚の寄生虫が棲息しており、生け簀の中は魚が密集しているため、寄生虫が発生することがあります。寄生虫が魚に寄生すると衰弱したり、2次的に感染症に罹って死んでしまうこともあり、商品価値が損なわれます。そこで養殖魚を含む水産動物の疾病の診断、治療、予防の目的で使用される、安全性および有効性が確かめられた水産用医薬品が薬事法に基づいて承認されています。水産用医薬品には、細菌の感染症に効果のある抗生物質や抗菌剤、病気の予防に効果のあるワクチンなどがあります。寄生虫を駆除する駆虫剤もそれらに含まれますが、ホルマリンは水産用医薬品として認められていません。しかし、ホルマリンは承認された駆虫剤よりも安価で、効率的に駆除できるという理由から、安易に使用される恐れがあるため、過去に水産庁は使用しないよう再三にわたり指導してきました。

 現在のところ、ホルマリンを検知する検査法は、高濃度で残留するホルムアルデヒドを測定するもので、ホルムアルデヒドは速やかに蒸発するため、過去に使用を含め汚染の有無を判別できません。そこで、ホルムアルデヒドが細胞にある遺伝子の本体であるデオキシリボ核酸(DNA)を修飾して、小さな痕跡となる分子を付加する(メチル化)ことに着目し、過去の使用を含めた汚染を調べる新しい検査法の開発を試みています。DNAは4種類のヌクレオシドという分子が、繰り返し結合した巨大な構造を持っています。具体的な手法は、まずDNAをトラフグの細胞から採り出して、ヌクレオシドに分解します。これらの中から、ホルムアルデヒドが修飾したヌクレオシドの量を測定して、ホルムアルデヒドがDNAに付けた痕跡の有無を調べます。この検査法が確立できれば、過去の使用を含めた汚染を調べることが可能になると考えられます。


  * ホルマリンとは、ホルムアルデヒドを成分として含む水溶液のこと


(食品化学課 小阪田 正和)


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