大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第86号− 2010年10月29日発行


次世代シークエンサーを用いた病原体検索システム

 感染症はときに大流行となり、人々の社会活動・経済活動に影響を及ぼします。患者由来の臨床検体から病原体を検出することは治療、感染症対策を講じる上で最も重要なてがかりとなり、特に新しい感染症の発生時には最優先課題の1つとなります。感染症危機管理対策上、予測される病原体を特異的に検出する方法(PCRや抗原検出)のみでなく、新規の感染症では未知の病原体を検出する方法を考え対応していかなければなりません。それには電子顕微鏡を用いて形態的に粒子用構造を観察し、病原体の有無と形態的特徴によって判定するという方法が考えられます。電子顕微鏡は非常に優れた検出法ですが、観察には熟練が必要で定期的に色々なウイルス粒子の観察をするなどの精度管理が必要で、また感度が悪いことが問題です。

 そこで、私たちは次世代シークエンサーを用いて、臨床検体中の病原体を検出するシステムを確立し、危機管理に応用していくことに取組んでいます。シークエンサーはAGCTからなる4つの塩基の配列を読取る装置で、ヒトの遺伝子や病原体の遺伝子を明らかにすることができます。従来のシークエンサーは電気泳動を基本にしているのですが、次世代シークエンサーは電気泳動を行わないことで従来に比べ300〜1000倍の配列を決定することが可能です。

 非特異的に増幅した遺伝子の配列を読み取り、得られたデータからデータベースにアクセスし相同性の高い配列を選択してくることで病原体を検出することが可能となりました。実験的にノロウイルス陽性便を用いて実施したところ、1回のシークエンシングでノロウイルス遺伝子の98%を決定出来た株もありました。また、ノロウイルス以外のウイルスも検出されるなど、従来法では検出出来なかった病原体も同時に検出され、感染の実態を明らかにすることが可能となってきました。病原体の遺伝子解析データは今後飛躍的に増えることが予想されます。

 それでは、データベースに登録されていない全く新種のウイルスに出会った場合は、どうするの?と思われるかもしれません。次世代シークエンサーでは従来法に比べ桁違いの膨大な遺伝子情報を得られるため、臨床検体中の遺伝子情報全体を網羅的に解読することにより、たとえ新種ウイルスであっても短期間の内にウイルス遺伝子配列を決定することができるようになってきました。

 この研究は理化学研究所、大阪大学微生物病研究所と実施しました。
 Nakamura S., Yang CS., Sakon N., et.al. Direct metagenomic detection of viral pathogens in nasal and fecal specimens using an unbiased high-throughput sequencing approach. PLoS One 4(1): 2009.
 

(ウイルス課 左近 直美)


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