大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第88号− 2010年12月28日発行


上気道炎の原因となるウイルスについて

 12月に入って一段と寒さが厳しくなってきました。冬は、インフルエンザをはじめ「上気道炎」の患者さんが増加する時期です。一口に「急性上気道炎」といってもその原因となるウイルスはかなりの種類があります。ヒトの呼吸器に感染する主なウイルスは、上気道だけでなく全身症状をも呈するインフルエンザウイルス、低年齢児では肺炎や気管支炎にもなるRSウイルスやヒトメタニューモウイルス、一般的に言われる「風邪」の大半を占めるライノウイルスのほか、コロナウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルスなどがあげられます。それぞれのウイルスには複数の血清型が存在するため、軽い「鼻風邪」なども含めると百種類以上のウイルスにかかる可能性があると言えます(表1)。臨床症状からはどのウイルスに感染しているのかを特定することは難しいのですが、地域でどのウイルスがどういう風に流行しているのかを知ることは公衆衛生学上重要です。

 そこで、昨年度の新型インフルエンザの流行期、特に、新型インフルエンザが府北部地域に限局して流行していた初期に、インフルエンザを疑われた患者さんの咽頭ぬぐい液の中から新型インフルエンザウイルスが検出されなかった検体を用いて、季節性のインフルエンザウイルスの検出とともに、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス、エンテロウイルス、パラインフルエンザウイルスの1と3型、アデノウイルスについて、リアルタイムPCR法*もしくはPCR法を用いた検出を行いました。

 その結果、対象期間とした5月22日〜6月25日の新型インフルエンザウイルスが検出されなかった165検体中25検体は新型以外のA型インフルエンザウイルス(いわゆる季節性インフルエンザ)が検出されました(表2)。また、165検体のうち23%に相当する38検体から他のウイルスが検出され、中には2種類以上のウイルスが検出された例も5件含まれました(表2)。このことは、症状からインフルエンザを疑った患者さんでも、インフルエンザが広く流行していないようなごく初期では、異なるウイルスに起因する上気道炎であることも多く、症状だけでインフルエンザを診断することは困難であることを意味します。また、府北部での発生と関連の無い地域での検索結果は夏期の疾患ではないと考えられていた季節性インフルエンザが散発的に存在していることを示しました。

 リアルタイムPCR法は多検体を短時間にまとめて検索するのに良い方法です。現在は各ウイルスの検出のための条件設定が異なっているため、目的のウイルスごとに検査を行っていますが、将来的には条件を揃えて1つの検体から複数のウイルスを同時に検査するシステムにしたいと考えています。




 *リアルタイムPCR法とは:ターゲットとする遺伝子配列(この場合は各ウイルスの持つ、そのウイルスに固有の遺伝子配列)を特異的に増幅させるPCR法に、遺伝子の増幅過程で増幅産物から蛍光を発生するように設計されたプローブを組み合わせて、経時的(リアルタイム)に蛍光強度を検出し、測定する方法。遺伝子の増幅と検出を同時に行えるので、検査時間が短縮される利点があります。また、プローブを結合させるので、特異性が高く、遺伝子量のわかっている陽性対照と比較することで、得られた増幅曲線から定量分析も可能です。



  (この内容は平成22年11月12日に第53回日本感染症学会中日本地方会学術集会にて発表したものを一部改変しました。)


(ウイルス課 森川 佐依子)


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