大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第91号− 2011年3月31日発行


分析機関に対する技能試験とその試料調製

 当課では食品中の残留物質などを測定する理化学検査を行っています。例えば食品中の農薬分析検査では、はじめに対象となる食品から測りたい農薬を抽出します。抽出操作は、有機溶媒などの検査対象農薬が溶け易い液を加えて、時には破砕機などでよく混ぜるなどして、加えた液に溶かします。含まれている農薬の量は、非常に微量であるため、それ以外の成分を取り除く精製操作が必要となります。そしてガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーといった分析機器などで測定します。カラムクロマトグラフィーは特定の成分の入った筒(カラム)にガスや液体を一定の条件で流します。そこへ試験液を入れると、物質の特徴によって出てくる時間が決まります。これを利用して検査対象農薬が有るか無いか、またその量はどのくらいかを測定します。

 このように、含まれている物質を測定するためには、抽出、精製、測定の大きく3つの工程を経る必要がありますが、どの工程でも誤差が生じる余地があります。このため、同じ試料から複数回分析を行えば、その測定値は完全には一致せず、一定の範囲に分散します。当課では、測定結果の信頼性について確認するため、検査時に添加回収試験を行ったり、技能試験に参加したりしています。

 技能試験とは、検査機関で分析して得られた測定値が、どの程度の信頼性があるかを確認する手段のひとつです。技能試験は多数の機関で行うことが一般的で、企画した機関(企画者)が試料の配布を行い、参加する機関(参加者)が試料を分析します。理化学検査の場合は、測定対象物質が一定量含まれた試料を用いますが、参加者にはその濃度が知らされていません。参加者は決められた期間内に分析を行い、測定値を企画者に報告します。企画者は報告値を集計して統計解析を行い、得られた結果を参加者に成績として返します。参加者は、その成績から他の機関と比べてどのような値を出していたかがわかります。ここでは、試料に含まれていた測定対象物質の真値を正確に測定できることが目的でなく、他機関と似たような測定値が得られているかどうかを知ることが目的です。全体の集団から外れていなければ合格と言えますが、集団と大幅に差がある場合は、分析法や途中の計算に何か誤りがあった可能性が考えられます。このように技能試験の結果から、採用している分析手法に問題点があるかないか、またその改善点の発見などができます。

 この技能試験で配布する試料は、上記のように多数の機関で同じ試料を分析する必要があることから、比較的大量でしかも均一であることが求められます。当課では、近年重要視されている加工食品の農薬分析に対する技能試験を企画し、加工食品を用いた試料の調製を検討しました。以前から農薬分析を対象にした技能試験は行われていましたが、その試料としては油脂や、ニンジンなどの野菜を非常に細かく潰したミクロペーストが用いられていました。これらは測定対象物質を添加した後、比較的簡単に均一化できます。しかし、今回の検討は加工食品が対象であるので、多様な成分を含む試料の調製を行うことにしました。そこで、動物性食品、野菜類等を含む加工食品として、レトルトカレー、ホットケーキ、冷凍餃子を使用して均一な試料調製の検討を行いました。これら食品に農薬を添加し、4〜8kgの試料を調製した結果、食品によって異なる問題点があることがわかりました。レトルトカレーは冷凍、解凍を行うことによって油脂が分離し、均一化した試料が不均一に戻ってしまうこと、ホットケーキは加熱調理によって重量が減少し、同時に添加した農薬も一部減少すること、などです。また、「添加した農薬が均一に混ざったこと」を確認するためには、調製した試料を10〜20個程度に分割し、そのうちのいくつかを併行して分析する必要があります。つまり、調製中に目視で確認できないため、分割した試料が均一でなければ、再度混ぜて均一化することになります。そこで、特に混ざり難いと考えられた冷凍餃子の場合は、農薬を添加する際に食用着色料を同時に加え、その色調を見て均一化の目安とすることにしました。以上の結果、技能試験に使用できる加工食品試料の調製ができました。

 平成20〜22年に地方衛生研究所8機関と共同し、これらの加工食品試料を用いた残留農薬分析の技能試験を行いました。当課では加工食品を対象とした残留農薬分析法の検討を行っていますが、この研究開始当初より農薬分析方法は確立されていません。そのため、参加機関の一部では、全体より外れた値を報告する例もありました。しかし、技能試験を行ったことによって改善点が発見され、試験回数を重ねるごとに成績は全体的に向上しました。

(食品化学課 起橋 雅浩)


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