大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第94号− 2011年6月30日発行


謎の食中毒の正体は?

 平成14年頃から、「刺身や寿司を食べた人達が4〜8時間後に嘔吐や下痢を発症したが、いくら検査しても病因物質が見つからない。」といった集団食中毒事例が全国でたびたび報告されるようになりました。一部マスコミにより、「謎の食中毒」と報道されたこともありました。

 平成21年6月から平成23年3月まで、厚生労働省が全国調査したところ、同様の症状で報告された事例は198件あり、その中の135件に提供メニューとしてヒラメが含まれていることがわかりました。平成22年10月には、銀行の景品としてヒラメが配られ、それを食べた534人中113名が、同様の症状を起こしました。この事例では共通食がヒラメしかなかったため、病因物質不明のまま、初めてヒラメを食中毒の原因食品と発表しました。

 ヒラメ中の病因物質については、全国の都道府県から患者さんの食べ残しのヒラメを集め、国立医薬品食品衛生研究所を中心に、国立感染症研究所および地方衛生研究所が協力し、その解明に取り組みました。その結果、網羅的ゲノム解析と遺伝子スクリーニングで、食中毒を起こしたヒラメにはクドア属粘液胞子虫が明らかに多く存在することがわかりました。そこで、当所では、それらのヒラメから抽出したクドア属粘液胞子虫を乳のみマウスに経口投与し、ヒトと同じように水様性の下痢を起こすことを確認しました。スンクスという実験動物に経口投与すると嘔吐することもわかりました。以上のことから、現在では、この寄生虫が病因物質である可能性が非常に高いとされています。

 一般的には魚類に寄生するクドア属はヒトに対して病原性がないと言われてきました。今回発見されたクドア属の寄生虫は、クドア・セプテンプンクタータ(Kudoa septempunctata)という新種です(写真1)。クドア・セプテンプンクタータはヒラメの体表から感染し、血中に入り、その後全身の筋肉にシュードシストを作ると考えられています。シュードシストの中には胞子がたくさん入っています(写真2)。不思議なことですが、それでもヒラメは平気に見えますし、食べたところで味も食感も変わらないようです。

 もちろん、クドア・セプテンプンクタータはすべてのヒラメに寄生しているわけではありません。ごく一部のヒラメにだけみられます。また、中心温度75℃5分以上加熱する、あるいは-15℃〜-20℃で4時間以上凍結することで、病原性はなくなります。そして、万が一食べてしまったとしても、症状は一過性で翌日には回復するようです。このことから、クドアが長期に人体で留まる可能性は低いと考えられており、ヒトからヒトへの感染の可能性もありません。

 しかし、予防対策は早急に取り組むべきです。今後、養殖段階でクドア・セプテンプンクタータ保有稚魚を排除する、感染しないように飼育環境を整える、出荷前にモニタリング検査をする、などの検討が進められています。

 ※この食中毒については、平成23年6月8日付けで薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒・乳肉水産食品合同部会が提言を発表しています



写真1 Kudoa septempunctata の胞子




写真2 ヒラメ筋肉中のシュードシスト(矢印)

(細菌課 久米田 裕子)


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