大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第94号− 2011年6月30日発行


羊水中のフタル酸ジエステル類の分析について

 生体内に取り込まれた化学物質は、代謝・分解等を経て体外に排泄されますが、子ども(胎児、新生児及び乳幼児)は、その機能が未発達であり、また体の形成・成長過程にあるため化学物質による悪影響に対して高い感受性を示します。このため、母子を中心とした化学物質の曝露状況を明らかにすることは、子どもの健康を守るために重要な課題です。今回は、フタル酸ジエステル類の母親から胎児への移行について調べた結果についてお話したいと思います。

 フタル酸ジエステル類は、日常生活に不可欠な合成樹脂製品に多く使用されています。フタル酸ジエステル類は、これら製品から少しずつ放出され、空気中やその製品と接する飲食物や医薬品に移行します。その結果、私達は、空気や飲食物等を介して、フタル酸ジエステル類に曝露されています。私達の尿を分析するとフタル酸ジエステル類の代謝物が必ず検出されますので、個人差はありますが誰もがフタル酸ジエステル類に曝露されていると考えられます。

 フタル酸ジエステル類及びその代謝物の一部については、胎児期を含む幼少期に多く曝露されると男性生殖器の発育不全が引き起こされることが指摘されています。このため、妊婦さんの曝露状況を明らかにすることが求められており、先の研究で妊婦さんの曝露量を尿試料の提供を受けて解析しました。その結果、耐用一日摂取量1を超える事例はありませんでしたが、全ての試料から代謝物が検出され、誰もが曝露していると考えられました。更に今回、妊婦さんが曝露されたフタル酸ジエステル類がお腹の胎児に到達しているかを解析しました。

 方法は、分娩時に血液と羊水等の試料の提供を受けて、最も主要なフタル酸ジエステル類であるフタル酸ジエチルヘキシル2及びその代謝物の分析を行いました。実際には、山口大学医学部で分娩時に採取された母体血3(97試料)、臍帯血4(99試料)及び羊水(41試料)中のフタル酸ジエチルヘキシル及び代謝物を分析し、試料間の濃度差を統計的に解析しました。

 その結果、フタル酸ジエチルヘキシルと代謝物は、血液よりも羊水中から高い濃度で検出される傾向が認められました。このことから、羊水中にフタル酸ジエチルヘキシル及び代謝物が一部貯留されていることが推察されます。胎児は、子宮内で羊水に包まれて生育しています。羊水は、外からの衝撃から胎児を守るだけでなく、物質の受け渡しの場にもなっています。すなわち、胎児は、羊水を飲み込む一方で羊水中に排泄もしながら生育していると考えられています。羊水中にフタル酸ジエチルヘキシル及び代謝物が検出されることから、胎児もこれらの化学物質に曝露されうると考えられます。羊水中に認められたフタル酸ジエチルヘキシル及び代謝物がどのように貯留したかについては、今後の研究課題ですが、母体を経由して存在していると考えられます。胎児が無用に化学物質に曝露されないためにも、妊婦さんが化学物質に過剰に曝露しないよう、生活環境中の化学物質の存在について注意深く見守っていくことが重要と考えられます。

     
  1. 耐用一日摂取量:ヒトがある化学物質を生涯にわたり摂取した場合、健康に悪影響を及ぼす恐れがないと推定される一日摂取量。なお、フタル酸ジエチルヘキシルの場合、体重 1kg あたり、40〜140 μg/日です。  
  2. フタル酸ジエチルヘキシル:樹脂の固さを調節する作用があり、主に塩化ビニル製の樹脂製品(電線被覆、建材、内装品、包装、塗装、雑貨及び医療器具等)に配合されています。  
  3. 母体血:妊婦さんの血液  
  4. 臍帯血:へその緒から採取される血液で、胎児由来の血液です。臍帯血から化学物質が検出されると胎児は、その化学物質に曝露されていると推測されます。この化学物質は、お母さんから胎児に受け渡されたと考えられます。
(食品化学課 高取 聡)


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