大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第96号− 2011年8月31日発行


難燃剤による環境汚染について

 ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)は、もともと燃えやすい合成樹脂製品などを燃えにくくして火災安全性を高めるための「難燃剤」として世界中で使用されてきました。PBDEsが添加された身近な製品例として、家電製品のプラスチック部品、家具の詰め物・カバー、自動車の内装部品などが知られています。

 難燃剤として使用されてきたPBDEsの工業製剤(主としてペンタ、オクタ、デカ製剤の3種類)は、臭素原子の数が異なる複数の成分を含んだ混合物であることが知られています。このうち、特にペンタ製剤とオクタ製剤に含まれる一部の成分(4〜7臭素化物)は、環境中で分解しにくく、野生生物やヒトの脂肪中に溜まりやすい性質を持っています。また、動物実験で脳神経などの異常が引き起こされた例が報告されており、野生生物やヒトへの悪影響が心配される環境汚染物質として問題になっています。さらに、近年の調査研究により、地球規模でのPBDEs汚染の広がりが次第に明らかになりつつあり、現在では4〜7臭素化物のPBDEsについては、残留性有機汚染物質(POPs)として国際条約による規制対象物質に指定されています。我が国でも、これらの成分は「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」の第一種特定化学物質リストに新たに追加登録され、2010年4月から、その製造・輸入・使用が原則的に禁止されています。

 他のPOPsと同様に、食物連鎖などを通じてヒトの母親の体内に蓄積されたPBDEsの一部は、授乳により乳児の体内に取り込まれると予想されます。そのリスク評価には、母乳中のPBDEs濃度を把握する必要があります。当所では、長期冷凍保存された母乳脂肪を用いて、1973年から2000年までのPBDEs濃度の推移を調べました。その結果は、以前の公衛研ニュース(第23号)でもお知らせした通り、PBDEs濃度は1970年代から1980年代後半に掛けて上昇傾向を示し、その後は2000年まで乳脂肪1グラムあたり約1〜2ナノグラム(1ナノグラムは10億分の1グラム)で推移していました。これらの数値は直ちに乳児への健康影響が問題となるようなレベルではありません。また、その後、さらに2001年から2006年までの母乳試料を用いて追加調査を行ったところ、PBDEs濃度の推移は概ね横ばいの傾向を示していました。国際条約による世界的なPBDEs廃絶の流れに伴い、PBDEsによる環境汚染問題は徐々に沈静化に向かうと予想されます。

(食品化学課 阿久津 和彦)


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