大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第21号− 2005年05月31日発行


『健康食品(魚油)』に含まれる残留性有機ハロゲン化合物と深海汚染

 近年の健康志向の高まりを反映して、市場には多種多様な「健康食品」が溢れています。これらのなかには、深海鮫肝油やタラ肝油など、魚の抽出脂肪(魚油)を原料としたものも多数市販されています。一方、魚の体内脂肪には食物連鎖を通じて有機ハロゲン化合物(PCBやDDT等)が蓄積される傾向があることから、市販の魚油にもこれらの汚染物の一部が溶け込んでいる可能性があります。しかし、法律で明確な基準値や表示義務が規定されていないこともあり、魚油中の有機ハロゲン化合物を対象とした監視・調査研究は全国的にみてもあまり行われていないのが実情です。特に、最近インターネット上などで「抗ガン作用」を有するサプリメントとして宣伝・販売されている深海鮫肝油の汚染実態については、これまで報告がありませんでした。

 このような背景から、昨年度、当所では魚油を原料とした「健康食品」を対象に有機ハロゲン化合物の残留調査を実施しました。対象としたのはインターネット通信販売を利用して2004年に購入した魚油35検体(うち深海鮫肝油12検体、アザラシ油5検体、ウミヘビ油1検体)です。調査の結果、いくつかの魚油から、比較的高い濃度の有機塩素系農薬(DDT類、HCHs、HCB、クロルデン類)や絶縁油・難燃剤成分(PCBs、PBDEs)が検出されましたが、常識的な範囲で魚油を摂取する分には、これらは許容一日摂取量を超えることはなく、健康影響上直ちに問題となるレベルではないことが分かりました。

 約4ppmのDDT類が検出されるなど、最も汚染度の高かったのは、日本近海産の深海鮫肝油を原料としたカプセル製品でした。汚染物の検出パターンや製品の製造工程から判断すると、これらの汚染物は製造過程で混入したものではなく、原料となっているアイザメ(水深500m以上の深海で捕獲)の肝臓中に残留していたものと推測されます。愛媛大の高橋らの環境調査においても、駿河湾に生息する深海性のヘラツノザメ(水深220〜540mの深海で捕獲)の肝臓から比較的高濃度の有機塩素化合物が検出されています。高橋らは、駿河湾および土佐湾の深海生態系が有機塩素化合物や有機スズ化合物(船底の防汚剤)によって広範囲に汚染されていることを明らかにしています。これらの汚染物は、海水中の降下粒子(プランクトンの死骸等)に吸着して海底に運ばれると考えられます。海洋深層水などの宣伝から連想される清浄なイメージと異なり、一部の深海は各種の環境汚染物質の溜まり場となっているようです。近年問題となっているPBDEs(残留性の高い難燃剤成分)も深海鮫肝油から約0.05ppmの濃度で検出されており、本化合物による海洋汚染が既に深海域にまで達したことが示唆されます。

 同じ魚種を原料とした魚油であっても、原産地や製法が異なれば、製品の汚染レベルは大きく異なると考えられます。例えば、同様の非加熱製法で製造された成分無調整のアイザメ肝油製品であっても、ニュージーランド近海産に比べ日本近海産は約1桁汚染物の濃度が高くなっていました。また、特定の成分(EPA、DHA等)を濃縮精製した魚油では有機ハロゲン化合物の汚染レベルが低い傾向が認められました。恐らく、減圧蒸留等の濃縮精製工程に伴い、原料に含まれる汚染物質の一部が除去されるのではないかと考えられます。上述のアイザメ肝油についても、精製工程の改善など、メーカーの自主努力による汚染物質の低減化が望まれます。

 以上、魚油中の汚染物質について述べてきましたが、これらの摂取リスクは市販の生鮮・加工魚介類を摂取する場合と比べて特に大きなものではありません。なお、特定の健康食品やサプリメントに頼りすぎず、バランスの良い食生活を心掛けることが一番だと思います。 

(食品化学課 阿久津)


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