大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第26号− 2005年10月31日発行


ヒトの豚レンサ球菌感染症!

 本年6月から8月にかけて中国四川省において、多数の死亡例を伴うヒトの豚レンサ球菌感染症が発生する事件がありました。患者数は200名を越え、死亡率も約20%と高いものでした。症状は高熱、倦怠感、嘔気および嘔吐、重症例ではそれらに引き続き髄膜炎、皮下出血、毒素ショックおよび昏睡等の臨床症状を呈していました。患者のほぼ全員が農夫か屠畜関係者で、病気の豚を屠畜、食肉加工、販売などを行っていたと報告されています。ヒトの病気としてはわが国では発生例も少なく聞き慣れない病気です。今回は簡単に豚レンサ球菌感染症について説明させていただきます。

 豚のレンサ球菌感染症の病原体としてはレンサ球菌の仲間であるStreptococcus suis(以下、豚レンサ球菌)、Streptococcus porcinusおよびStreptococcus dysgalactiaeなど数種類の細菌が挙げられます。ヒトの小児科領域で患者の多い病気として溶血性レンサ球菌感染症がありますが、こちらはStreptococcus pyogenesがその原因となり病原体は異なります。豚のレンサ球菌感染症の原因菌の中では豚レンサ球菌によるものが発生数も多く、また一度農場内に侵入し拡がってしまうとなかなか清浄化できないことから重要視されています。また本菌はヒトに感染を起こすことが知られており、今回の中国の事件もこの豚レンサ球菌が原因となっています。

 豚レンサ球菌は豚に感染して敗血症、髄膜炎、肺炎、心内膜炎、関節炎など多彩な病態を示し、時に流行し大きな経済的被害をもたらすことがあります。しかし特に豚に対して病原性が強いわけではなく生後5週齢ぐらいまでの幼い豚、過密飼育・換気不十分などの劣悪な環境で飼育され、抵抗力や免疫力の低下した豚などに対しては発症リスクが高くなります。また他の感染症(オーエスキー病、豚生殖器呼吸器障害症候群、豚サーコウイルス感染症など)と合併して発症する場合も多く見られます。

 ヒトが感染した場合の症状としては豚と同様に化膿性髄膜炎が多く見られます。発熱、頭痛に始まり、症状が進行すると髄膜炎となり神経症状を呈するようになります。後遺症として聴覚障害が残ることがあるため、できるだけ早期に抗菌薬による治療を開始することが必要になります。まれに敗血症による多臓器不全を起こすこともあります。感染経路は豚・豚肉との接触の際、皮膚の創傷面から病原体が侵入し、感染が成立するとされていますが、過去の報告では皮膚に創傷がないケースも多く見られます。

 ヒトへの感染はこれまで養豚業者、食肉処理従事者、獣医師など豚と接触がある職業のヒトでの症例がまれに報告されている程度でした。わが国でも論文や報告で確認できるものは5例しかありません。世界的に見てもヒトの集団感染は報告されておらず、ヒトからヒトへの感染例もありません。今回の中国での報告に関しては、現地の豚の飼育環境、衛生状態、レンサ球菌感染状況、病豚の処理方法など詳細が不明な点はありますが、これまでの常識では考えられない事件です。今後、今回の中国での豚レンサ球菌感染事例について、豚の感染・発症状況の調査、感染経路の追求、菌の病原性の解明、発症の誘因となる事象の有無など総合的に解析していく必要があると思われます。

 現在わが国では豚のレンサ球菌感染症は全国規模で発生が報告されています。発症した豚が食肉として流通することはありません。

(細菌課 勝川)


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