大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第29号− 2006年01月30日発行


食肉に照射された放射線の検出

 食品に放射線を照射すると、食品中の微生物が死滅し、食品の微生物管理や品質保持に効果があることが知られています。その効果は、照射によって生じるラジカル反応により遺伝子が損傷を受け、微生物が死滅するためだと考えられています。現在日本では食肉への放射線照射は禁止されています。一方欧米などでは食品の衛生管理の一貫として実用化されています。我国は食肉類を多く輸入しており、照射履歴を確認することは法律が守られているかを確認するために必要なことです。なお、日本ではジャガイモ以外全ての食品への放射線照射は禁止されています。

 照射された放射線は食品を通過するので食品には残留しません。また食品そのものに及ぼす影響は極めて小さいために、精度良く照射履歴を検出できる方法は多くはありません。

 放射線が引き起こすラジカル反応によって、微量ですが食品成分も一部変性します。照射特異的生成物を探して指標とすれば、照射履歴の検出が可能になります。脂肪を含む食品を放射線で照射すると、脂肪酸のごく一部が変性して2-アルキルシクロブタノン類と呼ばれる物質が、照射線量に比例して食品に残ることが明らかになってきました。2-ドデシルシクロブタノン(2-DCB)と2-テトラデシルシクロブタノン(2-TCB)が指標として研究されています。私たちは食肉の残留農薬分析法を土台にし、高感度かつ迅速に2-アルキルシクロブタノン類を検出する分析法を開発し、その実用性を照射食肉および調理加工品について確認しました。

 分析法の概略を説明しますと、2-アルキルシクロブタノン類は試料の脂肪と共存しているので、まず試料から脂肪を抽出します。このときに抽出効率の向上と時間短縮のために、加熱した酢酸エチルという溶媒で抽出します。次に抽出液を冷やして中性脂肪を追い出し、さらに測定の妨害となる脂肪酸類をカラムクロマトグラフィーで除きます。測定にはガスクロマトグラフィー質量分析計という装置を使用しますが、この装置は食品の残留農薬分析などによく使われる装置です。

 牛肉(ミンチ、赤身、大腸、肝臓)、各2種類の豚肉と鳥肉(ミンチ、モモ)、鮭に放射線の一種であるガンマー線を線量が1〜7kGy*になるように4段階の線量を照射すると、すべての試料で、照射線量の増大に応じて2-アルキルシクロブタノンが生成増加することを確認出来ました。脂肪の多い試料で0.5kGy、少ない試料でも1kGy程度まで検出できる感度であり、実用化されている放射線照射を確実に検出できることを確認しました。

 流通している食肉は、加熱調理された加工食品も多いので、実際に照射食肉や卵を加工、加熱調理して2-アルキルシクロブタノン分析を行いました。調味料や他の具材と混ざり分析試料としては複雑化しています。2-アルキルシクロブタノン類は加熱に対する安定性が高いとされていますが、放射線を照射した食肉類を加熱調理してみると、2-DCBと2-TCBを加熱前と変わりなく検出できました。空揚げや照射した卵を使ったホットケーキでは、調理油や他の材料が混ざる分だけ濃度が下がりましたが、これらについても2-アルキルシクロブタノンを検出できました。また照射していない食肉類を加熱しても2-アルキルシクロブタノンは検出されず、加熱調理後も2-アルキルシクロブタノンが照射の指標として有効であることが確認されました。

 私たちが開発した分析法は、ヨーロッパの公定法に比べると要する時間が大幅に短縮されており、翌日には分析結果を得られるので、流通段階の食肉やその加工品も迅速に照射履歴の検証結果を提供できるようになりました。諸外国で照射された可能性がある食肉類が輸入された場合でも、照射の有無が判断可能となり、法律が守られているかを科学的に示すことが可能となりました。 

(食品化学課 尾花)

*Gy:

放射線の吸収線量の単位(http://www.taishitsu.or.jp/radiation/ramsar.html 財団法人 体質研究会)



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