大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第32号− 2006年04月27日発行


バイオテロとその対策----ブルセラ症!

 ブルセラ症はブルセラ属の細菌のうちBrucella. melitensis(自然宿主:ヤギ、ヒツジ)、B. abortus(ウシ)、B. suis(ブタ)、B. canis(イヌ)が人に感染して発症する人獣共通感染症です。感染症法では4類感染症*に分類されており患者および無症状病原体保有者はすべて届出の対象となります。

 【感染源】

 ブルセラ症は本来動物の病気で、流産・死産を伴う伝染性の疾患ですが、特徴的な臨床症状がない状態で終生持続感染する場合も多く認められます。感染動物は菌血症を起こしており、雌では乳汁中へ多量の菌を排泄します。人への主な感染経路は汚染した生乳、乳製品、肉類の加熱殺菌不十分なままの摂取、動物あるいは死体や流産時の汚物との接触です。またブルセラ属菌は人に対して10〜100個の菌で感染することから、実験室内感染も散発的に認められています。同様の理由で生物兵器への使用も考えられる細菌です。

 【発生】

 ブルセラ症は世界的に分布しており、特に地中海沿岸地域、アラビア海沿岸地域、アフリカ、中南米で患者が多く発生しています。患者発生の多い地域は食料や社会・経済面で動物への依存度が高く、またブルセラ対策も十分に行われていない国が多いようです。先進国では保菌動物の摘発淘汰(Test and Slaughter)の施策により清浄化が進んでおり患者発生は少なくなっています。わが国でもB. melitensis、B. abortus、B. suisに関しては清浄化していると考えられています。しかし、イヌのブルセラ菌(B. canis)汚染は低率ですが認められています。2003年には静岡県内のイヌ繁殖施設におけるイヌの集団感染の報告もありました。イヌのブルセラ菌は人に対する感染性および病原性が他の3菌種と比べて弱いとされ、この事例においても施設従業員、診断した獣医師への感染は認められませんでした。1999年以降のブルセラ症の届出は2002年1例(東京都:国内発生)、2005年2例(東京都:感染推定シリア、長野県:国内発生)、2006年1例(東京都:感染推定エジプト)の計4例です。

 【症状】

 ブルセラ菌はあらゆる臓器に感染し全身症状を引き起こします。症状としては発熱、悪寒、倦怠感、関節痛などが認められますが、特徴的な症状がなく他の熱性疾患、風邪などとの鑑別は難しく、診断が困難であることが少なくありません。慢性型では発症後数年間にわたり全身倦怠感、微熱、関節痛が続く場合もあります。


 【診断・検査】

 特徴的な症状がなく臨床診断が困難な細菌感染症の場合、細菌学的な検査は非常に重要になります。しかしブルセラ属菌は培養が難しく、菌の検出、同定といった従来の細菌検査法では検出が困難です。このような場合であっても培養法に加え、遺伝子検出法、血清診断を組み合わせることで診断率は向上します。ブルセラ症は慢性の経過をとり、診察時にすでにブルセラ抗体を保有している場合が多く見られることから、血清診断を行うことは非常に有用です。また培養により生菌を得ることが困難であっても、血液などの採取検体中のブルセラ属菌特異遺伝子の検出、血液などの検体を培養した培養液からの遺伝子の検出が可能である場合があり、これらの結果を総合的に判断することにより診断が可能になることがあります。

 ブルセラ症のように臨床診断が難しく、また検査も困難な希少感染症の確定診断には臨床と検査の連携が非常に重要になります。当所ではブルセラ症の検査法を確立し、医療機関との連携がスムーズに行えるよう態勢を整えております。

(細菌課 勝川)

4類感染症*:

 「動物又はその死体、飲食物、衣類、寝具その他の物件を介して人に感染し、国民の健康に影響を与えるおそれがあるもの」と定義され、人から人への感染はほとんどない。



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