大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第35号− 2006年07月31日発行


バイオテロとその対策----天然痘!

 天然痘(痘瘡)は昔から伝染力が非常に強く、死に至る疫病として恐れられてきました。しかし1796年、イギリス人医師エドワード・ジェンナーの考案した種痘(しゅとう。最初のワクチン)の普及により、発生数は激減し、1958年から始まった世界保健機関(WHO)の「世界天然痘根絶計画」により1977年のソマリアでの自然発症を最後にその後発症者は見つかっておらず、1980年にWHOは天然痘根絶宣言を行いました。

 さらにWHOは天然痘ウイルスを地球上から完全に無くすために、研究用のウイルスの廃棄をも決定しました。しかしながら、旧ソ連崩壊時にこのウイルスが研究者と共に海外に流出した可能性があると考えた米国は、ウイルスの廃棄を見送り、診断法や研究開発の目的で現在でも厳重な管理下に保管しています。また、米国が廃棄しなかったことを受け、ロシアもこれに対抗し、廃棄せずに保管しています。

 【感染経路】

 天然痘ウイルスは感染力が非常に強いウイルスで、わずか10個程度のウイルス粒子の吸入でも感染が成立すると言われています。人から人への感染は、エアロゾル、飛沫、接触であり、口腔、咽頭、気道粘膜から体内に侵入します。
 強い感染力を示す例として、1970年のドイツでの事例が上げられます。パキスタンから帰国したドイツ人青年が帰国直後に発症、天然痘と解らないまま一般病棟に入院しました。4日後天然痘と診断され、感染症専門施設へ転院したのですが、看護師3名、同じ病室にいた入院患者2名、直接接触のなかった別の病室の患者13名、外来患者1名の計19名が発症し、そのうち4名が死亡しています。


 【臨床症状】

 潜伏期は平均12日であり、発熱、悪寒、頭痛といった感冒様症状を示します。2,3日後に一時的に解熱しますが、再び発熱するのと同時に、紅斑が顔や腕に同時に出現し、四肢に広がります。紅斑は発疹へ規則的に移行し、1、2日で中央部が窪んだ(臍窩:さいか)特徴的な水疱へ変化します。水疱はその後かさぶた(痂皮:かひ)に変わり、やがて皮膚に瘢痕(はんこん)を残してはがれ落ちます。
 感染者の平均30%が死亡し、種痘を受けた人でも3%が死亡する、非常に致命率の高い感染症ですが、もしも急性期を乗り越えられれば3週間程度で治癒し、終生免疫を獲得、瘢痕は残りますが予後は良好です。


 【診断・検査】

 四肢・顔面の特徴的な(「へそ」をもった)皮疹が現れれば診断は容易ですが、早期診断が感染拡大の阻止に非常に重要です。また、水痘との鑑別が重要ですが、水痘の水疱には「へそ」がない、体幹を中心に発疹する、手掌や足底に発疹しない、瘢痕を残さない等の差が天然痘の発疹との間に見られます。検査には水疱内容液や咽頭ぬぐい液、痂皮等を用います。ウイルスの検出には、電子顕微鏡による検出、抗原検出蛍光抗体法、PCR法等が用いられます。当所では水痘との早期鑑別診断を目的に、電子顕微鏡による鑑別法の確立、天然痘の属するPoxウイルス属に広く交差反応を示す蛍光抗体とリアルタイムPCRを利用した検出キットの準備を行っています。


 【予防・治療】

 1980年以降、我が国でも種痘(天然痘のワクチン)が廃止されていますが、予防法はワクチン以外に存在しません。ワクチン未接種であれば20-50%の感染者が死亡します。治療法も存在しませんが、感染後4日以内であればワクチンの予防的接種により有意に発症予防が可能です。日本では有事に備え、2001年より天然痘ワクチンの備蓄が進んでいます。しかし、ワクチン接種後10-50万人に一人の割合で脳炎が発生し、その致死率も比較的高いので、ワクチン接種の適応を決めるに当たっては十分な配慮が望まれます。


 【対応】

 天然痘は感染症法の1類感染症に準じ、感染もしくは疑似感染の発生が認められた場合、ただちに最寄りの保健所に届け出、患者は保健所の指示により第一種感染症指定医療機関に搬送され、HEPAフィルターを備えた陰圧個室*に隔離されます。
 二次感染拡大防止の為、医療関係者はマスク・手袋・防護衣を着用します。患者収容病院のスタッフ、救急医療従事者、警察官、消防隊、公衆衛生スタッフ等にワクチン接種が必要です。患者と接触があった、またはエアロゾルに暴露したかを厳密に調べ、その疑いがある場合は、ワクチンを投与し厳重な観察下におく必要があります。

(ウイルス課 川畑)

HEPAフィルターを備えた陰圧個室*:

 病室全体が大気圧より低くなるように設定されていて、扉の開閉や隙間からウイルスで汚染された室内の空気が室外に拡散することがない。室内の空気を、HEPAフィルター(定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集するエアフィルター)を通じて室外へ排気する。



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