大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第35号− 2006年07月31日発行


ニューキノロン系抗菌薬低感受性の赤痢菌が増えています!

 赤痢菌(Shigella)は細菌性赤痢の原因菌で、S. dysenteriae、S. flexneri、S. boydii、S. sonnei の4つに分類されます(Shigella は発見者である志賀潔にちなんで命名されました)。最近、治療に際してニューキノロン系抗菌薬が効きにくくなってきていると言われることから、その実態を調べるため、1998年4月-2005年3月の7年間に大阪府内の医療機関や関西空港検疫所で分離された赤痢菌840株(S. dysenteriae 21株、S. flexneri 137株、S. boydii 35株、S. sonnei 647株)について、「オールド」キノロン系抗菌薬であるナリジクス酸(NA)に対する感受性を調べ、NA耐性菌については、さらにニューキノロン系抗菌薬であるシプロフロキサシン(CPFX)の最小発育阻止濃度*を測定しました。

 その結果、S. dysenteriae 2株、S. flexneri 26株、S. boydii 4株、S. sonnei 204株の計236株(28.1%)がNA耐性を示しました。これらの株のうち、CPFXに対する最小発育阻止濃度が4μg/ml以上でCPFX耐性と判定されたものは2株(いずれもS. flexneri)で、残りの株は最小発育阻止濃度 0.032-0.5μg/mlを示し、CLSI(アメリカ臨床検査標準化協会)の現在の基準ではCPFX感受性と判定されました。しかし、CPFX感受性菌の65%(152株)は最小発育阻止濃度 0.125μg/ml以上を示し、「CPFX低感受性菌」であると考えられました。比較のために測定したNA感受性菌のCPFXに対する最小発育阻止濃度は0.004-0.016μg/mlですから、その差は8倍以上でした。NA耐性率は1999年から増加していましたが、2004年にはNA耐性菌のほとんどがCPFX低感受性を示しました。2003年まで少しずつ減少していた赤痢菌分離株数も、2004年には前年の1.6倍に増加しており、今後も細菌性赤痢の発生動向と赤痢菌のニューキノロン系抗菌薬耐性化に注意が必要です。また、CPFX低感受性菌は、インド、ネパール、中国由来株に多いことから、治療薬の選択には、海外旅行の有無や渡航先などの情報を考慮する必要があると考えられました。

 キノロン系抗菌薬は、細菌の持つDNA複製に関わる酵素に作用して殺菌作用をあらわしますが、この酵素の特定のアミノ酸に変異が起こると、抗菌薬が結合できなくなり、耐性化することが知られています。この酵素の遺伝子(gyrA)をPCR法で増幅した後、制限酵素*で切断されるか否かを調べることにより、gyrAの83番目あるいは87番目のアミノ酸にあたる遺伝子に生じた変異の有無が判定できます。変異の位置とCPFXの最小発育阻止濃度には相関性があり、NA耐性でCPFX感受性の菌は87番目に、CPFX低感受性菌は83番目に、CPFX耐性菌は両方に変異が見られる傾向がわかりました。gyrAの変異を調べる方法は、培養が必要な薬剤感受性試験に比べ、迅速にCPFX感受性をスクリーニングできる有用な方法であると言えます。

 赤痢菌は感染菌量*が10-100個と少ないため、二次感染の危険が高く、家族内感染や施設などでの集団発生も見られます(http://idsc.nih.go.jp/iasr/27/313/tpc313-j.html)。

 また、2001年11-12月に発生した輸入カキが原因と推測された広域食中毒をはじめとして、毎年のように食中毒も報告されています。感染拡大を防ぐためには、患者や保菌者を早期に探知して治療を行い、排菌していないことを確認する必要があります。また、薬剤感受性試験や感染症対策に必要な疫学解析を実施するため、病院などに分離菌株の提供をお願いしています。

最小発育阻止濃度*:

  薬剤の抗菌力を表すときによく用いられる単位で、段階的濃度の薬剤を加えた培地に細菌を接種し、発育できなかった最も低い(少ない)薬剤濃度を言います。


制限酵素*:

 遺伝子は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という4つの塩基の並び方で遺伝情報を規定していますが、制限酵素はこの塩基の特定の並び方を切る「はさみ」に相当します。


感染菌量*:

 ヒトに感染するために必要な細菌の数。腸炎ビブリオでは10万個以上と言われており、食品中で細菌が増殖しないよう管理することで予防できますが、赤痢菌や腸管出血性大腸菌では100個以下と少ないため、手ふきタオルなどを介して感染する危険があります。



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