大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第45号− 2007年5月31日発行


ダイオキシン類による母乳汚染の経年推移 -ダイオキシン類対策特別措置法の効果-

 化学工業の発展、高度経済成長に伴い、石油を原料とした多くの有機化合物が合成・多用され、人類は多大な恩恵と多様な利便性を獲得しました。しかし、農薬等に用いられた有機化合物は天然に存在せず、難分解性および高脂溶性のため、環境中に放出されると長期残存し、食物連鎖を通じてその高位にあるヒトや動物に蓄積、濃縮されます。これら化合物は残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants, POPs)と呼ばれます。POPsは人体に有害、かつ難分解性で生体内に蓄積しやすく、大気や海洋を経由して地球全体を汚染します。ダイオキシン類もPOPsの一つですが、その汚染源は、Polychlorinated biphenyl (PCBs) の不純物以外に、廃棄物の焼却過程や有機塩素農薬の生産過程で非意図的に生成され、環境を汚染するという特徴を持ちます。毒性が非常に強いことから1980年代以降大きな社会問題となりました。授乳婦においては、蓄積されたダイオキシン類が母乳を通して乳児に移行するため、乳幼児への影響が懸念されています。

 ダイオキシン類は、Polychlorinated dibenzo-p-dioxin (PCDD)7種、Polychlorinated dibenzofuran (PCDF) 10種、 Coplanar-PCB (co-PCB) 12種、計29化合物の総称ですが、その毒性は化合物によりそれぞれ異なります。各化合物の毒性はWHOにより、最も毒性の高い2,3,7,8-TCDD を1として、各化合物の毒性が定められており、これを毒性等価係数(toxic equivalency factors, TEF)、その総量を毒性等量 (toxic equivalency quantity, TEQ)と言います。ダイオキシン類の毒性評価には総TEQを用いて行います。分析には分解能が10,000以上の高分解能ガスクロマトグラフィー/高分解能質量分析計(HRGC/HRMS)を用いて測定します。

 環境省は1999年に「ダイオキシン対策特別措置法」を制定、施行して対策にあたりました。大阪府では、環境汚染が国内で問題となり始めた1972年より、「大阪府母乳栄養推進事業」として、PCBs等の長期モニタリングを厚生労働省の支援のもと行っていますが、当所ではこの際使用した乳脂肪の一部を冷凍保存していたことから、これを活用して国の調査の一翼を担い、1973年から2004年までの母乳中のダイオキシン類経年推移を測定しました。大阪府健康福祉室精神健康疾病対策課の協力のもと、試料提供了解の承諾(インフォームド・コンセント)を得た25〜29歳初産婦の乳脂肪を、年度毎に等量混合(各年度13〜37人)、1サンプルとしてその年度の試料とし、ダイオキシン類を測定しました。その結果、農薬やPCBs製品中の不純物が主な汚染源と思われる高塩素PCDDsおよび低塩素co-PCBsは、1974年を最高に2004年度まで年々大きく減少しましたが、塩素化合物の燃焼が主な汚染源と思われる、TEF値の高い5塩素および6塩素PCDDsの減少率は少なく、特に6塩素の1,2,3,6,7,8-HxCDDは、1970年代から1980年代後半にかけて増加、1990年以降は減少という、他とは異なったパターンを示しました。「ダイオキシン対策特別措置法」の施行により排出規制された2年後の2001年度からは、母乳中ダイオキシン類のTEQに対する各化合物の寄与率の変化が現れはじめました。総TEQに対して最も寄与率の高い5塩素PCDDs(TEF=1)が2001年以降大きく減少し、総TEQに与えるダイオキシン類それぞれの寄与率が2001年以降変化していることが認められました。これらの結果から、1999年に施行された「ダイオキシン対策特別措置法」により、TEFの高いダイオキシン類による母乳汚染、人体曝露は徐々に低減しており、その効果は着実に現れていると推察されます。過去30数年にさかのぼって、母乳中ダイオキシン類の汚染実態を調査した研究は、我が国はもとより海外でもなく、これらの分析で得た経年的推移の結果は、今後のダイオキシン類環境汚染対策を実施する上で貴重な情報となっています。

(食品化学課 小西)


▲ページの先頭へ