大阪府立公衆衛生研究所メールマガジン かわら版@iph

 −第46号− 2007年6月29日発行


新規HIV感染者における薬剤耐性ウイルスの検出頻度

 最初の抗エイズ薬であるAZTがエイズ患者の治療に使われるようになったのは、今からちょうど20年前、1987年のことでした。以来、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)が持つ酵素(逆転写酵素、プロテアーゼ)を標的としたエイズ治療薬が次々と開発され、現在我が国では約20種類の薬剤が臨床の場で使用されています。それらを複数組み合わせて服用する多剤併用療法の普及によりHIV感染者/エイズ患者の予後は著しく改善され、HIV感染症はもはや死に直結する病気ではなくなりました。今では、多くの感染者が日々の服薬と数ヶ月に一度の通院のみで通常の日常生活を送っています。しかしその一方で、薬を飲み忘れたり飲み方が不規則であったりすると、容易に薬剤耐性HIVが出現するため、治療困難に陥ってしまう例も少なくありません。さらに最近では、治療中の感染者だけでなく、新しく感染が確認された治療歴のない新規感染者の中にも薬剤耐性HIVに感染している例が見つかるようになりました。これは、耐性ウイルスを保有している既治療感染者からの伝播であると推察されます。欧米諸国では、新規HIV-1感染者の8〜27%に薬剤耐性ウイルスが検出されるとの報告がありますが、我が国ではこれまで積極的な調査がなされてきませんでした。そこで今回、厚生労働科学研究補助金エイズ対策研究事業において、新規感染者における薬剤耐性HIV-1の発生動向について全国規模での疫学調査を実施することとなりました。以下に、私達がその分担研究者として担当した大阪地域の調査結果をご紹介します。

 薬剤耐性検査には、HIVの遺伝子配列を調べて薬剤耐性に関連するアミノ酸変異を検出しそのパターンから耐性の有無を推測するgenotype法と、HIVを薬剤と共に培養しHIVの増殖を阻止する薬剤濃度を測定するphenotype法がありますが、今回は比較的簡便かつ短期間で結果が得られ、一般的な実験室で検査が実施できるgenotype法を用いて調査を行いました。

 2003年から2006年の4年間に感染が判明し医療機関を受診した新規HIV-1感染者80名、およびHIV抗体確認検査で陽性が確認された213例を対象に薬剤耐性検査を実施した結果、それぞれ3例(3.8%)および12例(8.0%)において耐性獲得に重要とされるアミノ酸変異が検出されました(全国規模の調査では4.9%)。その中でも、AZTなどの核酸系逆転写酵素阻害剤に対する耐性関連変異であるT215X(X:C,D,E,S)は近年著しい増加傾向にあり、特に確認検査陽性検体において高頻度に検出されています(2003年1例、2005年5例、2006年6例)。これらT215X変異を持つHIVの遺伝子配列を解析した結果、大阪地域で感染拡大しているT215X変異HIVは遺伝的に近い、つまりよく似たウイルス集団であることがわかりました。さらに、この変異ウイルスが検出されたグループには男性同性愛者が少なからず含まれていることから、T215X変異HIVがゲイコミュニティを中心に大阪地域で感染拡大しつつある可能性が示されました。

 薬剤耐性HIVに感染すると、耐性となっている薬剤の治療効果は期待できません。耐性ウイルスの存在を知らずに治療を始めると、効果のない薬剤を服用することになりかねず、その場合併用している他の薬剤の治療効果も弱まってそれらに対する耐性を誘導しやすくなり、最終的には治療失敗へとつながります。感染者自身のためにも、また効果のない薬剤を使うといった医療費の無駄をなくすためにも、新規感染者の薬剤耐性検査は重要であると考えています。

(ウイルス課 森)


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