エイズ治療の現状

年は薬害エイズ事件に人々の目が注がれましたが、この問題が解決すればエイズの問題が終わったという訳ではありません。実は我が国で報告されるHIV感染者の数はこの数年増え続けているのです。世界的に見てみても、欧米では増加が一段落したものの、アジアやアフリカ、中南米諸国での感染者の拡大は止まるところを知りません。エイズの拡大を食い止めるためには、「エイズ予防の知識が広まり、奔放な性行動に変化が起れば良い」わけですが、人々の性的な活動を変えるのは(貧困など社会的な問題をかかえている地域では特に)至難のわざです。

 一方、エイズを医学の力で解決する努力は少しずつ実を結びつつあると言えましょう。数年前ではエイズは「不治の病」というイメージで語られることが普通でしたが、この1、2年の間に新しい薬剤がいくつか試された結果、エイズの発症、つまりカリニ肺炎などに至るのを遅らせることが出来るのではないかと考えられるようになりました。新しい薬剤とは、今までに用いられてきたAZTやddIと同じ仲間の抗エイズ薬(逆転写酵素阻害剤)であるddC、d4T、3TC、それにエイズウイルスの細胞での再生産を阻止する3種のプロテアーゼ阻害剤です。それらの薬剤を2種あるいは3種組み合わせて投与すると、感染者の血液中のHIV量を極端に減らすことが出来、又それに伴って、減り続けていた免疫担当細胞(CD4陽性細胞)の回復が見られたのです。これらの効果がもし長続きすれば、エイズ発症を遅らせること、つまり延命治療が可能ではないかと考えられるようになってきました。<エイズはもう怖くない病>と言えるまでエイズの制圧に向けて更なる挑戦が続けられます。

 さて、このような薬剤治療を効果的に行うには、綿密な検査が必要になってきます。それらは体内ウイルス量の測定、ウイルスが悪性化していないかを調べる検査、あるいは薬が効かなくなる耐性ウイルスの出現を調べる検査などです。これらの検査によって、感染者の病気がどこまで進行しているかを判定し、薬をいつ投与しはじめたら良いかを知り、薬剤が本当に効果をあげているかどうかが分かります。また耐性ウイルスが出現したことが検査によって判明すれば薬を別のものに変えることが出来ます。

 当研究所では、これらの検査に積極的に取り組んでおり、エイズ治療に協力するための技術的なセンターとしての役割を果たしています。

病理課 大竹 徹