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タイトル 腸炎ビブリオ - 発見から50年 -

に、寿司やさしみを食べて食中毒になったことはありませんか?下痢と嘔吐を繰り返すこの苦痛は、経験者にしかわからないでしよう。その原因となる細菌が腸炎ビブリオです。腸炎ビブリオは、わが国における細菌性食中毒の原因菌としては代表格にあたり、時にはヒトを死に至らしめることもある怖い細菌です。

 腸炎ビブリオはもともと海水中に棲息する海水細菌の一種ですが、その分布状態は海水温度と密接な相関がみられます。わが国の近海では、冬季の海水から腸炎ビブリオはほとんど検出されませんが、海水温度が15℃以上に上昇する5月から10月にかけては常時検出されるようになります。これは、海底土中で越冬した菌が海水温の上昇に伴って、プランクトンに付着してさかんに増殖をはじめ、海水中の菌の密度が高くなるためと考えられています。

資料表紙

*平成11年の全国食中毒統計では腸炎ビブリオによる食中毒は642件9,152人の患者が出ており、第2位となっています。

1.腸炎ビブリオは大阪で発見された

腸炎ビブリオ

それまで知られていなかった新種の病原細菌として、腸炎ビブリオが発見される契機となったのが、1950年(昭和25年)10月21日大阪市南部地区から岸和田市、貝塚市および泉佐野市にかけて発生した「シラス食中毒」事件です。患者数272名、うち死者が20名にも及んだこの事件は、当時大きな社会問題となりました。原因となったシラスは、泉佐野市近海で10月20日に漁獲されたカタクチイワシの稚魚を塩ゆでにしたあと、一夜水切りして出荷されています。本食中毒事件については、大阪府衛生部がまとめた「シラス中毒に関する報告書」(写真)に詳細が記録されています。腸炎ビブリオは、本事件の剖検材料から、大阪大学微生物病研究所の藤野教授により分離されました。

2.腸炎ビブリオ食中毒

 腸炎ビブリオによる食中毒は、わが国では最も発生の頻度が高く、おもに海産食品の喫食によって夏季に多発します。原因となる食品としては、寿司やさしみが圧倒的に多く、この魚介類を生食する習慣が、わが国において本菌食中毒を多発させる主要な要因とされています。

 腸炎ビブリオ食中毒の潜伏期は通常11〜18時間ですが、2〜3時間で発症した例も報告されています。臨床症状は腹痛、下痢、嘔吐、発熱が主要所見で、重篤な場合は死亡する症例もみられます。

3.腸炎ビブリオの病原性

 腸炎ビブリオは、ヒトに感染して下痢を惹起させる能力を持つか否かによって、病原株と非病原株とに区別されます。通常、食中毒患者から検出される腸炎ビブリオの90%以上が病原株です。逆に、海水や魚介類等から検出される腸炎ビブリオの99%が非病原株といわれています。両者は、下痢起因物質である耐熱性溶血毒(TDH)ならびに耐熱性溶血毒類似毒素(TRH)という蛋白毒素の産生能を調べることによって判別することができます。

 TDHとTRHはアミノ酸組成で極めて高い相同性が認められ、遺伝学的に同一起源のものと考えられます。これらの毒素は下痢を起こす腸管毒としての活性の他にも種々の生物活性を有することが知られています。特にTDHは、心筋細胞に直接作用して心拍動を停止させる心臓毒としての活性(致死活性)をもつことが証明されています。腸炎ビブリオ食中毒における死亡例が他の食中毒の場合と比較して多いのは、TDHの作用が原因と考えられています。

4.腸炎ビブリオ食中毒を予防するには

 通常、健康なヒトが腸炎ビブリオ食中毒を発症するにはかなり大量(107〜108)の菌を摂取することが必要とされています。摂取菌量が少ない場合は胃液の酸によって大部分が死滅するため、感染部位の小腸に腸炎ビブリオが到達できないからです。一方、腸炎ビブリオが海水中に常在する以上、生の魚介類における腸炎ビブリオの一次汚染を避けることはできません。従って本菌食中毒にかからないためには、調理後の食品で腸炎ビブリオを増やさないことが最も肝要です。腸炎ビブリオは10℃以下の低温ではほとんど増殖できません。逆に、適温(25〜37℃)下での増殖スピ−ドは他の病原細菌と比べて極めて早いことがわかっています。食品の温度管理の良否が腸炎ビブリオ感染成立の鍵となります。

 腸炎ビブリオ食中毒の原因食品としては、魚介類の他に卵焼きや漬け物といった海産物とは無縁の食品であることも少なくありません。これはまな板や包丁等、調理器具を介した二次汚染が原因となったもので、調理環境の衛生管理も食中毒予防には重要です。

 食品細菌課 石橋 正憲

 

 花粉飛散 大阪における花粉飛散

花粉飛散量は毎日当所のホームページに掲載しています

年春になると、恒例行事のようにマスコミを通じてスギ花粉症が大きく取り上げられ、スギ花粉の飛散量が話題になります。
 花粉飛散というとスギ花粉を思い浮かべる人が多いと思いますが、冬を除いて一年中さまざまな花粉が飛んでいます。実際の花粉の飛散状況はどうなのでしょうか?

1.花粉について

 今までに日本で花粉症の原因とされている植物は、24科40種類以上確認されており、地域によって植生が異なるため、観察される花粉も異なります。

 日本での花粉症の約80%はスギ・ヒノキ科花粉症ですが、世界的には、気候・風土の違いでいろんな花粉症がみられます。アメリカではブタクサ花粉症、イギリスではイネ科の牧草の花粉症、北欧ではカバノキ科の木の花粉症などです(図2に代表的な花粉の電子顕微鏡像を示します)。

 日本における花粉の飛散は大きく2つのシーズンに分けられます。前半の2-5月は木の花粉季節(tree season)で、これらの木の花粉は量も多く広範囲に飛散するため問題になります。後半の6-11月は草の花粉季節で、カモガヤ等に代表されるイネ科花粉の季節(grass season)と、ブタクサ等に代表されるそれ以外の花粉の季節(weed season)があります。このような花粉症の原因となる植物は、ほとんどは風で花粉を飛ばす風媒花ですが、虫媒花でも、繁茂している草木の周辺の人やリンゴやイチゴ等のような受粉作業を行う人の間では花粉症がみられます。

スギ花粉

グラフ
スギ花粉

ブタクサ花粉

ブタクサ花粉
図2 代表的な花粉の電子顕微鏡像と大阪の花粉飛散量の年次変化*
(*当研究所屋上でのサンプリング値より)

 2.大阪の花粉飛散の現状

 大阪においては、2月中旬よりスギ科・ヒノキ科・カバノキ科・イチョウ・コナラ属・マツ科の花粉が順々に飛散します(図3)。特徴として、砂防・治水用に植えられているカバノキ科のヤシャブシ、街路樹に多く用いられているイチョウ等の花粉が観察されます。特にヤシャブシは、スギに次いで花粉症を引き起こしやすいと言われています。草の花粉季節では、イネ科・ヨモギ属・ブタクサ属・カナムグラ等の花粉が飛散しますが、都市部のため、その数はわずかしか観察されていません(図4)。

 これら草の花粉は飛散距離が短いため、観測される花粉の量は非常に少ないのですが、ブタクサなどの群生している地域周辺では、飛散量が多いため大きな問題になります。また、大阪における木の花粉飛散の年次変化は、隔年で増減しており花粉にも豊作不作があることがわかります(図2)。

木の花粉量
図3 大阪における木の花粉の飛散量変化(1999年)*
草の花粉量
図4 大阪における草の花粉の飛散量変化(1999年)*

3.花粉症対策

 飛散距離が短い草の花粉のように原因植物が刈り取れる場合は、除草する事で対処できます。しかし、広範囲に飛散する木の花粉の場合は、今のところ花粉をできるだけ避けるしか方法はありません。花粉飛散情報に注意して、飛散の多いときは外出を控えたり、花粉症用マスク・めがね等防護グッズ等を利用することにより花粉症対策を行うことができます。

 花粉症の治療は最近非常に進歩してきましたが、残念ながら完全な治療法は見つかっていません。しかし、専門医による診断を受けて症状を軽くする薬を使用したり、花粉症についての正しい知識を身につけて予防対策を行うことで、花粉症の季節をうまく乗り越えることができるのではないでしょうか。

病理課 西村 公志

 

 タイトル 高度安全実験施設 - 当所のP3実験室 -

染症の診断や研究を行う場合、取り扱う職員および地域社会に与える危険度により、ウイルスや細菌などはレベル1から4までに分類されています。公衛研にはレベル3の高度安全実験室(通称P3実験室)が設置されており、エイズウイルス、つつが虫病リケッチア、腎症候性出血熱ウイルスなどの検査や研究に活用されています。

P3実験室

 安全実験室は密閉された特殊な二重構造をしており、大気より気圧が低く保たれ、室内の空気が環境に漏れ出さないようになっています。微生物を扱う作業は、このような室内に設置されている安全キャビネットという箱状の装置の中で行われます。排気される空気は2つの細かいHEPAフィルターを通るようになっており、ウイルスでも100%捕らえられ、環境を汚染させる可能性は全くありません。
 作業を行う職員は写真のように、帽子、マスク、手術衣、二重にしたゴム手袋で感染から自らを守っています。

(文責:病理課 大竹 徹)


発行日:平成12年4月1日
編 集:大石、中村、山吉、桑原、片岡、野上
事務局:薬師寺 、渋谷(内線297)